第2回 レモンの型でレモンケーキを|くらしの本棚

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第2回 レモンの型でレモンケーキを

takako@caramel milk tea稲田多佳子さんがお菓子を焼く日々のあれこれを綴るエッセイ。
おまけのおいしいレシピもご紹介します。

2016年、今年も春から夏にかけて、レモンを使ったお菓子をたくさん焼きました。レモンのお菓子は1年を通して焼いているのですが、暑い季節がやっぱりよく似合うと思います。

ナイフでレモンを丁寧にスライスする時、ゼスターで表皮を薄く削る時、果汁を片手でぎゅっと絞る時。レモンを扱うどんな場面にも、嗅覚を真っ直ぐに心地よく刺激する、瑞々しくて透明感のある切れ味のよい香り。夏場のオーブン仕事は暑いはずなのに、目の覚めるような清々しい香りに包まれると、暑さもひと時忘れそうになるほど。そして、焼き上がったお菓子のきゅんと甘酸っぱい爽快な酸味は、ひとくちふたくちと食べ進める毎に、体の隅々にまで涼しさが届けられるような気さえするのです。

お菓子作りで、お料理で、レモンの果汁が少しだけ欲しい。そんな時がちょこちょこあって、市販の瓶詰果汁を冷蔵庫に常備して便利に使っている日常なのですが、フレッシュなレモンを使っての作業は、やはり格別。よどみなく鮮度の高い味わいはもちろんのこと、お菓子を焼き終わり、片付けを終えた後にまでキッチンにやわらかく残る香りには驚かされるとともに、生きた素材の新鮮な力強さを身にしみて感じます。

レモンサブレ、ウィークエンドシトロン、レモンパイ、レモンスクエア、レモンクリームのロールケーキ・・・。他にもいろいろなレモンの焼き菓子がある中で、「レモンのお菓子」といっていちばんに思い浮かぶのは、レモンの形をしたレモンケーキ。パウンド型だったり、リング型だったり、マフィン型だったりと、気分や用途によって様々な型で焼くレモンケーキですが、使っていていちばん気持ちが上がるのは、レモン型かも知れません。

「これはレモンのお菓子です」と説明せずとも、形がそれを無言で雄弁に伝えてくれるのがいいなと思うし、それ以前に、ぷっくりとしたレモンそのものの姿がもう、文句なしでチャーミング。

それに、レモンの型って、とても贅沢な型だと思うんです。レモン味以外の生地を焼くには何となく違和感があるように感じるから、私にとってのレモン型は、レモンケーキを焼くためだけに揃えている型。レモンの型で焼くのはレモン味のケーキだけなんて、贅沢ですよね。多目的には使えないけれど、だからこそ、使い回さないことに美と価値がある。そんな眼差しで、小さなレモン型をいつも見つめています。

また、子どもの頃から知っているお菓子だからでしょうか、そこはかとなく漂うもの懐かしさにも、静かに心惹かれるのです。普段のおやつにいつもある存在ではなくて、お客さまの手土産だったり、両親の知り合いから届く贈り物だったりと、私にはいただきもののお菓子としての印象が強いレモンケーキでした。

淡い黄色の薄紙でキャンディーのように包まれていたり、やわらかな銀紙でそっとくるまれていたり。親しみと贈答品の特別感が共存するパッケージの中に入った、ころんと愛らしい佇まいのレモンケーキ。その味は、気安さのある素朴なおいしさで、いい意味で高級なケーキとは違う種類のおいしさがあるということを、このお菓子を通して学んだような気がしています。それからもうひとつ。可愛い形をしたお菓子は、見ているだけでハッピーな気分になれるということも。

いくつかのエピソードや想いが詰まった、レモンケーキ。大人になり、いただくばかりでなく手作りして差し上げられるようになったことがとても嬉しくて、子どもの頃の自分に対してちょっぴり誇らしくもある、今の私です。


レモンケーキ

材料 (7.9×5.3×高さ2.9cmのレモン型 6個分)

  • A 薄力粉45g
  •   アーモンドパウダー 30g 
  •   ベーキングパウダー 小さじ1/8
  •  
  • B バター(食塩不使用) 40g
  •   サワークリーム 30g
  •  
  • グラニュー糖 45g
  • 卵黄 1個分
  • 卵白 1個分
  • 塩 少々
  • レモンの皮のすりおろし 1/2個分
  •  
  • 仕上げ用…粉砂糖60g、レモン果汁小さじ2くらい、刻んだピスタチオナッツ適量

※卵はLサイズのものを使用しています。

下準備

・Aを合わせてふるう。
・型にバター(食塩不使用)を塗って、強力粉又は薄力粉をはたく(共に分量外)。

作り方

①耐熱容器にBを入れ、電子レンジか湯煎にかけて溶かす。オーブンを170℃に温める。
②ボウルに卵白と塩を入れ、グラニュー糖を少しずつ加えながらハンドミキサーで泡立てて、ツヤのあるしっかりとしたメレンゲを作る。
③卵黄を加え、ハンドミキサーの羽根か泡立て器で全体に混ぜる。Bを2~3回に分けて加え、その都度手早く均一に混ぜる。Aをふり入れ、レモンの皮も加えたら、ゴムベラに替え、底からすくい返すようにして、なめらかなでツヤのある状態に混ぜる。
④型に流し入れ、170℃のオーブンで16分ほど焼く。型から外し、ケーキクーラーに取って完全に冷ます。
⑤仕上げる。粉砂糖とレモン果汁をとろりとよく混ぜ合わせて、スプーンなどでケーキの表面に塗り広げ、中央にピスタチオナッツを散らす。表面のコーティングが乾けば出来上がり。

※コーティングの固さは、緩めにするとケーキに薄くかかり、やや固めにするとぽってりと乗ります。お好みで調節を。

 

プロフィール

稲田多佳子(著者)
京都に生まれ育ち、現在も京都で暮らす。
HP「caramel milk tea」 で手作りお菓子の写真を掲載したのがきっかけとなり、2004年にお菓子のレシピ本を出版。以来、年に数冊のペースでお菓子やお料理のレシピ本を出版している。代名詞といえば、焼きっぱなしの焼き菓子とロールケーキ。ひとくち食べると思わず心も笑顔になるような、毎日でも食べ飽きず作り飽きることのない、簡単でやさしい味わいのお菓子作りがモットー。
日本茶インストラクター、ティーアドバイザー、ジュニアオリーブオイルソムリエを取得。