第1回 福岡の「クランク」と「マルチェロ」
2016.08.02
この度、フリーライターの私が、取材の合間に寄り道したり、誰かに連れて行ってもらったり……。
そんなお店をご紹介する連載を始めることになりました。
とは言っても、私は元来マメな性格ではないので、話題の店にすぐ足を運んで……というショップ紹介ではありません。
日本のあちこちに、わあ、なんて素敵な場所だろう……と心を震わすお店がある。そこには、必ず素敵な人がいる。そんな出会いを、ご紹介できたらいいなあと思っています。
記念すべき第一回目は、 福岡の「クランク」と「マルチェロ」です。
知る人ぞ知るこの店は、「福岡に行ったら絶対!」と足を運ぶ人も多いはず。
「クランク」はフランスをメインとした古い家具の店。 「マルチェロ」は洋服のお店です。
2軒の店主、藤井健一郎さんは、弟の輝彦さんとともに 買い付けから販売までを行っています。
初めて出会ったのは、今から10年以上前のこと。 当時はまだ、警固の交差点近くの かつてバーだったという古い小さな店舗で「マルチェロ」だけがありました。
11年前に出版した私の初めての著書『扉をあけて、小さなギャラリー』でも 取材をさせていただきました。 当時から藤井くんが語っていたことは、 今もまったく変わりません。
冒険と夢と空想が広がるものが好き。
好きなのは、サーカス、遊園地、アコーディオン。
世の中の流行がどうだって、 みんなが好きなものが何だって、 この軸がびくともしないから、 「クランク」と「マルチェロ」は 日本に唯一のお店として、 この個性をずっと色あせることなく輝かせ続けているのです。
お店を訪ねると、「えっ?今日お休み?」と思うはず。
中の様子はまったく見えず、白い扉があるだけ。 初めての人は入りにくいったらありゃしない。
でも、ガラリとそのドアをあけたときから、 目の前におとぎの国への入り口が現れるのです。
毎年兄弟でフランスへ買い付けに。
巡るのは工場だったり、印刷所や洋裁アトリエだったり、 どこかの誰かが働いていた場所が中心です。
時折、「これ、だれか買うの?」とびっくりする 大きな飛行機のおもちゃなどが店内にディスプレイされていることも。 でも、どんなものも必ず売れていくから不思議です。
「みんなが欲しいと言ってくれなくても たったひとり欲しいという人がいればいいんです」 と藤井くんは言います。
そんな家具を並べたお店が「クランク」。 行くたびに、がらりと店内が変わり、 ふたりが持ち帰った空気に触れることができます。
『暮らしのおへそ』で取材をさせてもらったとき、 藤井くんは宮崎アニメが大好きだ、ということを初めて知りました。
「クランク」の上階に「マルチェロ」があります。 この店を作るとき、藤井くんは「天空の城ラピュタ」を参考にしたのだとか。
「クランク」から一旦出て、 すぐ横にある暗い階段を登ると、小さな扉が見えてきます。
ここを開けると、なんと一転青空が広がる屋上に!
芝生の横の小道を通りぬけると、今度はまた新たな扉が。
開けると今度は下りの階段が現れます。
大きなバッグを持っていたら通れないほどのせま~いこの階段を 降ったら、やっと「マルチェロ」に到着です。 アーツ&サイエンスを始め、古着や、古い器、アクセサリーなどが 並んでいます。
あえて遠回りさせて、お店へ。
その道のりをワクワク楽しんで欲しい……。
これが、藤井くんが宮崎ワールドから学んだ、 お客様をびっくりさせる「しかけ」でした。
今では、日本全国からお客様が訪れ 時には店舗のデザインも手がけ、 どんどん成長し続けるすごいお店。
ビジネス的にもきっと大成功を収めているはず。
でも、藤井くんは、いつ会っても変わらず 元気な笑顔で迎えてくれます。
福岡に出張に行くたびに 必ずこの店を訪ねます。
時には、飛行機の出発まであと1時間!
なんてときにも、うわ~っと行って、うわ~っと帰ってくることも。
特に買い物をしなくても、 行きたくなるのは この店に流れている空気と香りと音楽が 大事なことは何だったのか、 を思い出させてくれるから。
ぜひ、一度だけでなく、 二度、三度と繰り返し訪ねてみてください。
クランク・マルチェロ
福岡市中央区警固3-1-27
☎︎092-724-3250(クランク)
☎︎092-712-7415(マルチェロ)
営13:00~20:00
水、木曜日休
http://www.krank-marcello.com
【201704旅行・九州】