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【第1回】1,Fujimino - (1)

2016.10.21 | 彩田眞里

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1,Fujimino

 

 サイタマ国の首相坂戸(さかど)(ひろ)(なお)(六十四)は悩んでいた。

 この乱世とも言える時代であまりヘマをするような真似はしたくない。一国のリーダーとなったのは(まあそれほどでもないが)嬉しいが、その分責任が重くのしかかって来る。ヘマをすれば政界から引退をしなければいけないほど、今は震災の対応、近隣国との外交関係で緊迫しているからだ。

(出来るならば、責任をあまり負いたくない)

 彼は心底そう思っていた。そんな訳で首相室内に信頼の篤い専任秘書を二人呼ぶと、どうすれば責任をあまり追わずに済むか共に考える事にした。

 答えはすぐ出た。

 サイタマ国のご隠居様になる事が得策ではないかと意見が出たのだ。と言う事で、新たなサイタマ国のリーダーを決める事となった。責任を代わりに負って貰う事が前提なので動かしやすい人材であることが重要であった。

 と、一人の秘書が坂戸に耳打ちする。坂戸の右唇が上に曲がった。

「そうだ。彼だ。彼にしよう」

 坂戸はボソッとつぶやいた。そして秘書にたのんで急いで坂戸のいう「彼」の住所を調べてもらい、そこに向かった。さいたま国総合庁舎から黒いセダンで約二十分、ふじみ野市の「彼」の家の前に到着した。

 玄関前の庭に十代半ばの少年と少女の姿が見えた。

 

「あっ! 友作くん、後ろに……サイタマのリーダーさんがいるっ!」

 三つ編みの少女の丸い大きな瞳が坂戸に向けられた。中身で白髪の坂戸は控えめに手を振り返した。

「本当だね」

 友作と呼ばれる爽やかな雰囲気の少年が平然と返す。坂戸は家の門に立って背広の襟を整えると、口を開いた。

「こんにちは。私は、御存知の通りかと思いますがサイタマ首相の坂戸博直と申します……あなたが友作君だね」

 友作は少し戸惑った様子を見せて、門の前に行く。少女もその後ろをついてゆく。

「あ、はい。僕が稲城(いなぎ)友作(ゆうさく)ですが、何の御用でしょうか」

 丁寧に返答する。坂戸は前にも友作の事は見たことはあるのだが、こうやって近くで彼の姿を見ると、整った顔立ち、色白の肌から女に見えなくもないと言う印象を与えた。

(ルックスは最高だな)

 坂戸は思った。少し間が空き、坂戸は友作の問いに咳払いをしてから答える。

「君に是非聞いてもらいたい、大事な話があるので総合庁舎で話さないか」

 出来る限り平然を保っていたい友作であったが、これには驚いて「えっ!?」と漏らした。

「とりあえず、あなたのお母さんを呼んできたら?」

 友作の横で少女がそう囁く。彼は小さく頷いた。

「今から母を呼んできますので、少々お待ちください」

 そう言って友作は、いそいそと家に入って行った。二十秒もしないうちに、茶髪のパーマでセミロングの髪をした友作の母が家の外に出てきて、門の前に立った。

「あなたが坂戸首相……身分証明書を見せて下さい」

 出てくるなり、坂戸首相に強い口調でそう言い放った。彼女は三十代後半だが、二十代にも見える若い顔つきであった。

 坂戸は少し驚いた表情を見せて、背広の内ポケットにある身分証明書を見せ、革の名刺入れから名刺を一枚とりだして、友作の母に渡した。

「あたしにも一枚お願いします!」

 少女が輝いた目で名刺を求める。

「おいおい、蘭々(らんらん)……」

 友作が苦笑いしながらつぶやく。蘭々と呼ばれる少女は名刺を受け取ると満足気な表情を見せた。

「まあ、暑いので中で話しましょう」

 友作の母が家へと誘った。

「じゃ、あたし帰るから、後で報告してねー」

 蘭々は友作にニコニコしながら手を振り、ここから右に三軒目の家へ帰っていった。彼女が家の門に入る所を見届け、友作は家に入った。家の応接間で坂戸と秘書と友作の母は、早速話をしていた。たわいない世間話であった。友作が現れ、母の隣に静かに座ると、坂戸は本題を切り出した。

「息子さんにとても大事な話があります。その話を我が首相室で行いたいと思っておりますので、どうかお連れしてよろしいでしょうか」

 坂戸は本気だ。その姿を窺い、かなり重要な話らしいと友作も感じた。

「なんの話ですか。ここで話せないんですか」

 彼の母は、戸惑いながらも強気に尋ねた。

「ここでは、話せません。内容も秘密です。ですが、これだけは言っておきます。目が出るほど嬉しい話であります」

「何ですか、その目が出るほどの話とは」

「今は秘密です。そもそも友作さんに話す内容ですし……」

「わたしは、友作の母親です。わたしに秘密にされては困ります」

 友作の母は頑固な態度を見せた。

「お母さん。そんなに僕を心配しないでよ。もう僕はそろそろ大人にならなければいけないのだから、親の保護の皮を破らなければいけない。社会に顔を突っ込まなければいけないんだ。僕は坂戸首相と総合庁舎で話をする。だから行ってくるよ」

 ハキハキと母を説き伏せた。

「そう……だよね。行ってらっしゃい」

 彼の強い姿勢に反論することなく、友作の母は優しく返した。

 刻は十五時を回っていた。友作は黒いセダンに乗り込むと、母に手を振り行ってくるよと挨拶した。色々な感情が渦巻き母の頬に涙がしたたる。

「いってらっしゃいね……」

「うん。泣かないでよ。僕が恥ずかしいじゃない」

 黒いセダンがモーターの駆動音をたてて静かに動き出す。どんどん遠ざかってゆく。

「本当に良い話だといいけれど……」

 彼女はそう消え入るように呟いた。

 

――サイタマ国総合庁舎首相室

「えっ、ええええええええ!」

 友作の目が真ん丸に飛び出そうなほど開いて坂戸を見つめた。オーヴァーアクションではない。当たり前の反応である。

「友作君は、私が知っている通り、作文コンテストでは出展する度、何かしらの賞をとっており、サイタマ県主催の弁論大会では、会場のみんなを虜にする弁論を行った。そうそう、私はあなたの小六の時の『ふるさと作文』をよく覚えている。君はサイタマへの想いは人一倍だし、優秀で、行動力があるから、今のサイタマのリーダーになるのにふさわしいのだ」

 坂戸はとにかく必死である。それは誰から見ても良く分かる。だが必死に説得すればいいと言う物じゃない。友作は必死に平然を保とうとする。

「僕はまだ子供です。いくら、首相が僕を絶賛しても、社会からの視線は厳しいものです」

「いやいや。子供だから出来ないとか、社会の批判を浴びるとか言いますけれど、大丈夫ですよ。難しい事はもちろん私達が行うので、友作君は国民の顔となってくれればいいのです。

 もちろん、私は友作君の補佐となり全力を尽くすので、難しい事は全部任せても良いですよ。まあ、この様な反乱の時期は、年齢関係なく国のリーダーとならねばならない事もあります。例えば、ブータンの第四代国王は十六歳で国王となっておりますし、かの秦の始皇帝は十三歳で王に即位しています」

「この国は民主主義なのですから、王政とは違います。そんな言葉で僕を落とせると思わないで下さい」

「そうですか。でも国民はわたしの様なつまらぬ者より、若く行動力のあるリーダーを求めていると思いますよ。震災で疲れきった人々の心を癒すためにも、君みたいな和やかな者がリーダーになるべきだ。本当に」

「僕でないといけないのですか」

「そうです、あなたでないと行けないのです。私は、サイタマのリーダーはあなたしかいないと思っています」

「しかし、それは国民が決めることです。選挙で選ばれる人こそリーダーにふさわしいですし……」

「この様な時期に選挙なんて時間のかかる事を行っていたら、廻りの国々に取り込まれてしまう。だから、私は選挙で選ばれた者、つまり国民の代表として君を推したい」

「…………」

 長い沈黙の後、友作は座っていた黒革のソファから俯いた状態で勢いよく立ち上がった。そして顔を上げ、坂戸に目を据えると睨みつける様にジッと見つめた。

 その視線は覚悟を決めたようにも見えた。友作は大きく息を吸い、静かに吐くと、硬く閉ざされた唇をゆっくり開いた。

「そこまで言うのならば、この稲城友作、サイタマの為、世界の為に、日本を再興させてみせましょう」

 深く威勢のある声が総合庁舎の応接室を包む。美白の少年の勇姿が夕陽に照らされていた。

「ありがとう。本当にありがとう」

 友作の言葉に思わず坂戸は跪いて涙ながらに感謝の意を表した。本当に坂戸としてもこれは嬉しかった。

「さて、これは、リーダーの仕事をまとめた書である。必ず読むのだよ」

 坂戸はそう言って、分厚い書類を友作に渡した。

「ありがとうございます。最後に確認しますが、本当に僕でいいのですね」

「もちろん! あなたしかいません」

 坂戸は胸を張って言った。それから坂戸は秘書に友作を家をまで送り、彼がサイタマのリーダーに任命された事を友作の親に伝えて来るよう命じた。友作が総合庁舎から出たのは、十八時だった。二時間はずっと話をしていた事になる。

 

 早速、友作は帰りのセダンの中で例の書類に読みふけっていた。

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