【第3回】またお金の問題 | マイナビブックス

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新訳・ドリトル先生物語

【第3回】またお金の問題

2014.12.02 | ヒュー・ロフティング

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第3章 またお金の問題

 

そうこうしているうちに、先生はまたもや金持ちになりました。
妹のサラも新しい服が買えて満足そうです。
患者の中には、病気が重くて1週間ほど入院していく動物もいます。
そういった患者は、よくなってくると、庭の芝生のイスにいついたりして、治ってもなかなか帰りたがりません。
先生やこの家が、とても気にいってしまったのです。
先生もお人よしなので、いさせてほしいと頼まれると断り切れません。
そんなこんなで、動物の数はますますふえていきました。

ある日、こんなことがありました。
夕方、先生が庭のフェンスに腰掛けて、パイプをふかしていた時のことです。
イタリア人のオルガン弾きが、サルをヒモで引っ張りながらやってきたのです。
先生はそのサルを一目見て、首輪がきつすぎるのと、汚れていて、つらそうにしているのがわかりました。
先生はサルの首輪をはずすと、イタリア人に1万円札をつきつけて、いいました。
「どっか行け!」
イタリア人はカンカンに怒りました。
「これはオレのサルだ」
しかし、先生はいい返しました。
「行かないなら、その鼻にパンチだ! へし折ってやる!」
先生は背は高くないけれど、力は強いのです。
イタリア人は文句をいいながら去っていきました。
サルは、居心地のいいドリトル先生の家に住むことになりました。
ほかの動物は、このサルのことを「チーチー」と名づけました。
これは、サル語で、「赤毛」とか「元気」とか「しょうが」というような意味の、ありふれたことばです。

またある日、こんなこともありました。
パドルビーにサーカスがやってきたときのことです。
サーカスに、クロコダイルという種類のワニがいたのですが、このワニがひどい虫歯になり、夜中に抜け出して先生の庭にやってきたのです。
先生はクロコダイルのことばでワニと話すと、家にいれてやり、虫歯を治してあげました。
ところが、このワニは先生の家のすばらしさに気づいてしまったのです。
先生の家には、どんな動物にとっても、居心地のいい場所というのがちゃんとあるのです。
ワニは自分もこの家に住みたくなったので、「魚を食べたりしないから、庭の池にいさせてください」と、たのみました。
サーカスの人たちが連れ戻しに来ましたが、あまりにも暴れ狂うので、おそれをなして帰ってしまいました。
でも、家のみんなに対しては、とてもきちんと紳士的にふるまいます。
しかし、ペットのイヌを連れてくるおばあさん連中は、ワニが怖くてたまりません。
お百姓も、連れてきたヒツジや子ウシが、ワニに食べられてしまうと思いこんでいます。
しょうがないので、先生はワニにいいました。
「すまんが、サーカスにもどってはくれんか?」
すると、ワニは大粒の涙を流します。
「どうかここにいさせてください」
そういって、強く強くお願いするのです。
こうなると、先生も帰すわけにはいきません。

妹のサラが先生にいいます。
「兄さん。あの生き物、送り返してよ。でないと、お百姓もおばあさんも、こわがって全然、来ないじゃない。せっかくうまくいきかけてたのに! このままじゃ、破滅への道まっしぐらだわ。これがラストチャンスなのよ。あのアリゲーター追い出してくれなきゃ、私もう、兄さんの身のまわりの世話しないから!」
「あれはアリゲーターではない。クロコダイルだ」
「そんなこと、どうだっていいわよ! あのいやらしいのが、ベッドの下とかにいるのよ。あんなのが家にいるなんて耐えられない」
「しかし、あいつは約束したよ。だれもかみませんって。あいつはサーカスがイヤなんだ。かといって、ふるさとのアフリカに送るほどの金もない。自分のことは自分でするし、全体として、かなり行儀もいい。そんなに神経質になるなよ」
「私は、あんなのがまわりをウロウロしてるのがイヤだっていってるの。あいつ、床のリノリウム食うのよ! もし、いますぐにあいつを追い出さないなら、私、私、家出るわ! 結婚してやる!」
「いいじゃないか。そうしなさい。それもありだ」
先生はそういうと、帽子をとって庭へ出て行きました。
サラは、荷物をまとめて出て行きました。
先生は、とうとうひとりぼっちで動物に囲まれて暮らすことになったのです。

先生は、あっというまに貧乏になりました。
それも、いまだかつてなく。
どの動物にもエサが必要です。
家の修理もしないといけません。
やぶれた服をぬってくれる人はいません。
肉屋にはらう金はありません。
金のはいるメドもありません。
大変なことになりました。
しかし、先生はまったくもって平気でした。
「金なんて、めんどうなだけだ」
先生はいつもそういいます。
「あんなもの発明しなけりゃよかったんだ。金がどうしたっていうんだ? 楽しけりゃ、それでいいじゃないか」

しかし、そのうち動物の方が心配するようになってきました。
ある日の午後、先生が台所でのイスに座ってうたたねしているすきに、ひそひそ声で動物会議がはじまりました。
算数が得意なフクロウのホーホーが計算すると、あと1週間しかお金がもたないとわかったのです。
ご飯は1日1回という計算で、です。
オウムのポリネシアがいいました。
「私たちも家のお手伝いをするべきだと思うの。少なくとも、できることはしないと。だって、先生がひとりぼっちで貧乏になったのも、全部私たちのせいでしょう?」
そりゃそうだということで、サルのチーチーは料理とぬいものを、イヌのジップは床掃除を、アヒルのダブダブはハタキかけとベッドの整頓、ホーホーは家計簿をつけて、ブタのブウブウは庭の手入れをすることになりました。
オウムのポリネシアは一番年上なので、家政婦と洗濯係です。
もちろん最初はみんな大変でした。
チーチーをのぞいて。
チーチーは手があったので、人間と同じようにできたのです。
でも、みんなすぐに慣れてきました。
イヌのジップが、ボロきれをシッポに巻いて、ほうきがわりに床をはく姿など、なかなかの見ものでした。
ついには、ドリトル先生が、「こんなにキチンとして、家がきれいになったのははじめてだ!」
と驚くほど、みんなの腕もあがったのでした。

こんな感じで、しばらくはうまくいっていました。
しかし、お金がないというのは厳しいものです。
みんなで、庭の外に野菜や花の店を出して、道行く人に、ダイコンやバラを売ったりもしました。
それでも生活費が足りません。
なのに、ドリトル先生はのん気です。
オウムのポリネシアが、「もう魚屋で魚を買うお金がありません」といっても、
「気にするな。ニワトリが卵をうんでウシがミルクを出しさえすれば、オムレツだってプリンだって食べられる。庭には野菜がたくさんある。まだ冬は来ないし」
「でも、先生……」
「さわぐでない。サラじゃあるまいし。あいつはうるさいんだよ。そういえば、どうしてるかなあ……。ある意味ではよくできたヤツだったがなあ。わっはっは」
しかし、その年の雪はいつもより早かったのです。
よれよれの25歳のじいさんウマが、森からマキをいっぱい運んでくるので、台所の火は申し分ありません。
でも、野菜はほぼなくなり、残った分も雪にうもれ、みんな、とてもひもじくなってきました。