今年の天体大イベントの一つ「パンスターズ彗星」がいよいよ見頃です


話題になっている「パンスターズ彗星(C/2011 L4 (PANSTARRS) )」がいよいよ見頃の時期となってきました。彗星というと尾を引いた巨大な天体が空を駆け抜けるイメージが強いと思いますが、流星のように地球に向けて落下して来るわけではありません。流星は1ミリから数センチという小さな宇宙のゴミが引力によって地球によって引き込まれ、その際に大気との摩擦で燃えて明るく光るわけですが、彗星は直径が数キロメートルから数十キロメートルという天体です。

 

流星に比べると凄まじく大きいのですが、太陽系の主な天体である惑星(水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星)や準惑星(冥王星、エリス、ケレス、マケマケ、ハウメア)といった天体は、小さなもので975キロメートル、大きなもので14万キロメートル近くにも及び、これらと比べると遥かに小さなものですが、今年の2月に地球に大接近して話題になった小惑星2012 DA14は45メートルぐらい、同じ頃にロシアに落下した隕石は15メートル前後と予想されており、それなりの大きさであることがわかります。

 

左から「百武彗星」(1996年)、「リニア彗星」(1999年)、「池谷・張彗星」(2002年)/提供 国立天文台

 

彗星によってばらつきはありますが、核の成分は80%近くが氷で、二酸化炭素や一酸化炭素、アンモニア、メタン、そしてケイ酸塩鉱物や炭素質の塵なども混ざっています。この核からガスや塵が放出されて彗星特有のほうきのような尾になります。この尾は、ガス系は太陽風、塵系は太陽の光圧によって太陽とは反対側の方向に伸びます。流星でも痕と呼ばれる尾のようなものが見られることがありますが、これは大気との摩擦で進行方向の逆に発生しているのですが、彗星はあくまでも太陽の反対側のため必ずしも進行方向の逆にあるわけではなく尾が先になりながら軌道を描くタイミングもあります。

 

惑星の多くは黄道面の上をほぼ円に近い楕円を描く公転軌道となっていますが、彗星は極端な楕円軌道のものが多く、例えばハレー彗星は大きな楕円を75.3年もの周期で描いています。前回は1986年に地球に近づき、次回は2061年に再び接近するので運の良い方は2回見ることができるかもしれませんが、パンスターズ彗星は惑星の影響で楕円ではなく放物線になっているために再び帰ってくることはなく、今回が最後のチャンスとなります。まさに一期一会の彗星ですね。

 

提供 国立天文台

 

パンスターズ彗星の見える位置ですが、実はこれが少々問題です。彗星は他の恒星や惑星と同じような動きをしており、現在は夕方の西の空にかなり低い位置に見えていて、日が沈んで暗くなってくると少しずつ見えてくるわけですが、しばらくは太陽の光の影響が残っているために空が黒色に変わるころには沈んでいます。東京を例にすると3月10日は日の入りが17時44分で30分後のパンスターズ彗星の高度は10度以下でした。西側に高い建物や山があるとまず見えません。また、地平線に近い空はもっとも大気が厚くなる角度なので見え方も不安定になりがちです。15日からは30分後でも10度以上の高度になるので多少条件が良くなりますが、どんどん日も長くなっていくのでその後は北西に横に移動するような感じで見えます。

 

提供 国立天文台

 

しかし、3月25日あたりからは、明け方にも見えるようになります。夕方に見えて明け方にも見えるのは不思議な気がしますが、パンスターズ彗星は太陽に最大に接近(近日点距離)する際にはなんと水星の軌道の内側に入り、水星や金星と同じような内惑星の状態になります。このため、地球の自転によって他の恒星とほぼ同じように昇って沈むという動きをしますが、朝夕に見られる時期があるわけです。「明けの明星」「宵の明星」と言われる金星も朝夕同日に見られる時期がありますが、東京からでは高度が低くて見るのはかなり至難の業です。

 

提供 国立天文台

 

パンスターズ彗星の光度は3等級程度と言われていましたが、条件が良ければ肉眼でも観察できる可能性があります。しかし、できれば双眼鏡を用意して観察することをお勧めします。双眼鏡は望遠鏡に比べて倍率は高くありませんが、肉眼に比べると数十倍もの明るさを得ることができるため、薄暗い彗星でもかなりハッキリ見ることができます。もちろん、望遠鏡を持っている方はより倍率の高い観察あるいは撮影に挑戦して欲しいと思います。13日〜15日にかけては西の空で月のすぐ近くに見えており、さらに木星も近くにいるので3つの天体を一枚の写真に納められる絶好の機会です。お見逃しなく。すでに岡山天体物理観測所石垣島天文台のホームページにはパンスターズ彗星の写真が掲載されていますのでぜひご覧ください。きれいに尾があって、とても彗星らしい形をしているのがわかります。

 

左からビクセンの「アリーナH6×21 WP」(7875円)「アトレックライトBR6×30WP」(1万3650円)、「アークBR12×80WP」(6万8250円)。口径が大きくて倍率があまり高くない製品のほうが明るくてきれいに見えますが、小型サイズの双眼鏡でも肉眼で見るよりは遥かに明るくきれいに見えるのでぜひ使ってください。

 

なお、日本天文協議会では「パンスターズ彗星を見つけようキャンペーン」を3月1日〜4月30日まで実施しています。お子さんと一緒に彗星探しに参加してみてはいかがでしょうか。

 

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