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望遠鏡導入計画

(7)どのタイプの望遠鏡を選ぶか:赤道儀・三脚編

金環日食まで2カ月を切りました。そろそろ望遠鏡も決めなくてはいけませんね。今回は、赤道儀の紹介をしたいと思います。

 

赤道儀の種類

 

赤道儀の軸数は経緯台と同じ2軸ですが、赤経軸を北極星付近にある極軸に正確に向けることによって、日周運動と同じ動きをして天体を追尾して行くことができる架台です。価格が安く、セッティングや操作が簡単な経緯台と違い、極軸合わせという面倒な作業と高い精度が必要とされる赤道儀は、その複雑な構造も相まって価格は高価になりがちです。しかし、長時間の観測や撮影を行なうために自動で天体を追尾できる機能や観測・撮影のためのさまざまなオプションが用意されているのも赤道儀の特徴です。

 

ビクセンの自動追尾式の赤道儀であるSXマウントと80mm口径の屈折式鏡筒を組み合わせたA80M-SXWは28万1400円。三脚と赤道儀の間には鏡筒の可動範囲を広くするためのハーフピラーと呼ばれる筒が取り付けられています。

 

鏡筒と同じように赤道儀にもいくつかの方式がありますが、一般向けとしてはコンパクトに設計することができ、鏡筒の可動範囲も広く取ることができるドイツ式と呼ばれるタイプが大半を占めています。他にもフォーク式、ヨーク式、イギリス式、ホースシュー式などがありますが、実際に購入できる製品はドイツ式のみと考えていいでしょう。

ただし、ドイツ式赤道儀以外の赤道儀を使ってみたい方の選択肢としては、MEADEの自動導入式経緯台にウェッジと呼ばれるオプションパーツを組み合わせることでフォーク式の赤道儀として使用する方法があります。CELESTRONの自動導入式経緯台は付属の三脚にウェッジの機能が装備されており赤道儀としても使用できます。ビクセンの自動導入式経緯台「スカイポッド」は赤道儀として動作させるためのプログラムが組み込まれていません。

 

赤道儀の構造

 

これまで何度もの紹介しましたが、赤道儀は赤経軸を天の北極(極軸)に合わせてしまえば、あとは日周運動をする天体を簡単に追っていくことができます。経緯台は上下左右の2軸を同時に動かさないと星を追えませんが、赤道儀は赤経軸を回転させるだけで追尾できるからです。しかし、基本的には経緯台と同じ2軸構造とは言え、外観からわかるようにウェイトを装備するなど少々複雑な構造になっています。また、赤経軸を天の北極に向けるために上下左右に動かすことができるように実際には4軸構造になっています。上下左右の軸は天体を追いかけるためのものではないのでモータなどは必要ありませんが、正確に極軸を合わせるためには何らかの微動機能が欲しいところです。しかし、天体望遠鏡によっては装備していないものもあります。

 

ドイツ式は鏡筒と反対側にバランスウェイトを取り付けるようになっており、位置を調整して天秤のように鏡筒と重さのつり合いを取ります。この形がドイツ式の特徴とも言えます。ウェイトの位置や追加によって、より軽い鏡筒、重い鏡筒、あるいはカメラの搭載なども可能になります。天体の追尾方法も手動式と自動追尾式が選べ、さらに自動導入に対応した製品も用意されています。耐荷重や機能、精度など、ユーザーの要望や予算に応じて豊富に用意されているのも赤道儀の特徴の一つだと言ってもいいでしょう。また、ポータブル赤道儀のように機能や堅牢性よりも持ち運びに特化した製品もあります。

 

赤道儀は大きくて重い製品ほど風や振動の影響を受けにくいのですが、あまり巨大になると組み立てや持ち運びが大変になります。そのため、単純に小さいから性能が低いというわけではなく、目的によって選択することになります。特に搭載可能な重量が製品によって大きく異なるため、鏡筒やカメラといったパーツの合計重量が最大でどれぐらいになるのかを予め考えてから選ぶ必要があります。あまり無理な荷重をかけると追尾の精度が落ちたり、場合によっては内部のメカが歪んでしまい正常に動作しなくなることもあるので注意しましょう。

 

ドイツ式赤道儀は、赤経、赤緯の2軸に加えて、極軸を合わせるための上下(高度)、左右(方位)も動かすことができます。ただし、上下左右の軸は天体を追尾するものではないので微動機能がない製品も多数あります。SX赤道儀はどちらも微動での調整が可能です。

 

正確に天の北極に極軸を合わせる装置として、極軸望遠鏡という機材があります。赤道儀によっては最初から内蔵していたり付属しているものもありますが、精度の高い追尾を行ないたい場合にはぜひ揃えておきたい機材です。基本的な使い方は、赤道儀の赤経軸の内側にセットして架台を水平に設置し、極軸望遠鏡の中に北極星が入れて内蔵されているスケールの指定位置に北極星が入るようにします。少々厄介なのは、北極星もわずかですが日周運動をしているため、日時によって指定位置も移動することです。そのため、極軸望遠鏡ではスケールそのものが回転するようになっていて、時間を指定することによって北極星の日周運動に合わせて位置を指定できるようになっています。

 

 

ビクセンのSX赤道儀用のSX極軸望遠鏡(1万5750円)。水準器を装備しており、簡単に極軸を合わせることができる。

 

赤道儀のデメリット

 

とても便利な赤道儀ですが、経緯台と比べて構造が複雑で高い精度が要求されるため、どうしても高価になってしまう点が悩ましいところです。特にモータを装備した自動追尾が可能な製品は手動式に比べて何倍も価格が高くなってしまいます。また、精度を維持するためには丁寧に扱う必要があります。無理な使い方をするとすぐにガタが来てしまいます。

 

組み立てや設置も経緯台のように簡単ではありません。いくつものパーツをきちんと組合せ、さらに極軸を合わせる必要があります。極軸合わせは数十分かかることもあり、比較的明るい天体をちょっと観察するのであれば圧倒的に経緯台のほうが便利だと言えましょう。しかし、ビクセンの自動導入式の赤道儀のように適当に北の方角に向けて、あとは自動導入の機能を利用して追尾できる機能を備えた製品もあります。もちろん、精度は下がりますし、そもそも極軸が正確に合っていないので天体が視野の中で回転してしまいますが、撮影をするのでなければ経緯台並に手軽に扱うことが可能です。

 

ビクセンの赤道儀

 

ビクセンでは6シリーズ8種類の赤道儀を販売しています。同社のラインナップの特徴は、手動も自動導入式も選択可能で、さらに手動式は購入後に自動導入式にアップグレードすることができることでしょう。例えば、手動式のGP2は3万8325円なので、経緯台式のポルタII(2万9400円/三脚付属)の価格に数万円プラスするだけで購入可能で、4万4100円のDD-3という2軸モータとコントローラのセットを追加すると電動での追尾に、9万2700円のSTAR BOOK-TypeSセットというコントローラ&モータのセットを追加すると自動導入に対応できます。将来的に自分の好みのタイプにアップグレードできる製品です。

 

ビクセンのコントローラには、モノクロ液晶画面の「STAR BOOK-TypeS」(スカイポッド、GP2、GPD2に対応)、4.7インチカラー液晶画面の「STAR BOOK」(SX、SXDに対応)、5インチカラー液晶画面の「STAR BOOK TEN」(AXDに対応)、自動導入機能のない二軸コントロールのみの「DD-3」(GP2、GPD2に対応)の4種類があります。

 

【SX】18万3750円/軽量コンパクト、低価格で入門用としても手軽/自動導入方式/搭載重量約12kg/STAR BOOK付属

【SXD】26万2500円/SXの上位版、高精度高剛性、ベアリング内蔵/自動導入方式/搭載重量約15kg/STAR BOOK付属

【SXP】39万9000円/パルスモータ採用の最新モデル、高精度高剛性/自動導入方式/搭載重量約16kg/STAR BOOK TEN付属

【GP2】3万8325円/手動式のエントリーモデル、購入後にオプションの追加によって自動導入化も可能/手動追尾/搭載重量約7kg

【GP2・SBS】13万725円/GP2とコントローラをセットにしたモデル/自動導入方式/搭載重量約7kg/STAR BOOK-TypeS付属

【GPD2】9万1350円/GP2の精度、強度、耐久性をアップしたモデルでオプションで自動導入化も可能/手動追尾/搭載重量10kg

【GPD2・SBS】18万3750円/GPD2とコントローラをセットにしたモデル/自動導入方式/搭載重量約10kg/STAR BOOK-TypeS付属

【AXD】102万9000円/大型のハイエンドモデル、耐荷重30kgを実現/自動導入方式/搭載重量約30kg/STAR BOOK TEN付属

 

 

ビクセンの赤道儀。左から、SX、SXD、SXP、GP2、GPD2、AXD。

 

高橋製作所の赤道儀

 

単体での経緯台をリリースしていない高橋製作所ですが、赤道儀は複数用意されています。すべて極軸望遠鏡を内蔵し、ステッピングモータでの稼働となっていますが、PM-1という最新モデルは低価格で手軽に天体を追尾できるというコンセプトのため、赤経軸のみにモータを内蔵しており、自動導入には対応していません。しかし、プラネットフォーク、フォーク経緯台、全方位経緯台などのバリエーションが用意されています。Temma2Mシリーズは、両軸にモータを内蔵し、付属の多機能コントロールボックスによって天体を追尾することができます。また、パソコンと接続することによって自動導入が可能となっています。

 

【PM-1】22万4700円/自動導入には未対応/赤経モータ内蔵/搭載重量約5kg/最高速2倍速/駆動周波数約40pps

【EM-11 Temma2M】34万4400円/自動導入対応可/両軸モータ内蔵/搭載重量約8.5kg/最高速150倍速/駆動周波数約100pps

【EM-200 Temma2M】50万8200円/自動導入対応可/両軸モータ内蔵/搭載重量約16kg/最高速700倍速/駆動周波数約100pps

【EM-400 Temma2M】94万3950円/自動導入対応可/両軸モータ内蔵/搭載重量約35kg/最高速500倍速/駆動周波数約240pps

【EM-500 Temma2M】144万1650円/自動導入対応可/両軸モータ内蔵/搭載重量約40kg/最高速400倍速/駆動周波数約100pps

【EM-2500 Temma2】天文台用大型モデル/自動導入標準装備/搭載重量約90kg/最高速400倍速/駆動周波数約100pps

【EM-3500 Temma2】天文台用大型モデル/自動導入標準装備/搭載重量約150kg/最高速350倍速/駆動周波数約100pps

 

三脚にも複数の種類がある

 

鏡筒を支えるのが架台であり、さらにそれを支えるのが三脚です。かなり昔は、木製の伸縮式か金属ピラー脚(正確には形状から言うと三脚ではなく脚です)が主流でしたが、最近はアルミやスチールを使用したものもラインナップされています。三脚も当然ながら大きくて上部なものが観測には良いわけですが、やはり大きくて重くなってしまうため選択が難しいところです。また、三脚よりも金属ピラー脚のほうが鏡筒がぶつかる可能性が少なくて使いやすいのですが、例えばビクセンのSX赤道儀のセット商品に付属しているアルミ製2段伸縮式三脚は重量が5.5kgですが、金属ピラー脚は12.5kgにもなります。もちろん、金属ピラー脚の方が性能としては優れているわけですが、重量があるため持ち運ぶのは容易ではありません。半固定の脚と考えたほうがいいでしょう。場合によっては、三脚+ハーフピラーという組み方ができる製品もありますので、こちらを検討してみるのもいいでしょう。ビクセンのSXGハーフピラー(SX、SXD、GP2、GPD2、スカイポッド対応)は単体で1万7850円で購入できます。

 

鏡筒、架台、三脚がセットになった商品の場合は、三脚の選択の余地はありませんが、将来的に軽量のものやより堅牢なものを買い足して観測する環境によって使い分けてもいいでしょう。

 

ビクセンの各種三脚。これはほんの一部で、各架台専用や共用で使用できるタイプも用意されています。ちなみに左から、軽量伸縮式のアルミ製、伸縮式のスチール製、大型向けの伸縮式アルミ製、金属ピラー脚です。高橋製作所では、木製伸縮式、木製直脚、メタル直脚なども販売しています。

 

では、一通り望遠鏡の紹介が終わりましたので、次回はいよいよ実際に購入する製品を考えたいと思います。

 


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〈連載目次〉

「望遠鏡導入計画 - 1 金環日食に向けて機材を検討する」
「望遠鏡導入計画 - 2 メーカーはやはりタカハシか?」
「望遠鏡導入計画 - 3 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:基礎編」
「望遠鏡導入計画 - 4 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:鏡筒編」
「望遠鏡導入計画 - 5 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:架台の種類編」
「望遠鏡導入計画 - 6 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:経緯台編」
「望遠鏡導入計画 - 7 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:赤道儀・三脚編」
「望遠鏡導入計画 - 8 購入条件に合う天体望遠鏡を探す」
「望遠鏡導入計画 - 9 天体望遠鏡はこれに決定!」
「望遠鏡導入計画 - 10スカイポッドVMC110Lを組み立てる」
「望遠鏡導入計画 - 11スカイポッドVMC110Lの設定と調整」
「望遠鏡導入計画 - 12スカイポッドVMC110Lのアライメント準備」
「望遠鏡導入計画 - 13スカイポッドVMC110Lのアライメントを行なう」
「望遠鏡導入計画 - 14危険が伴う太陽撮影!NDフィルタも注意が必要」
「望遠鏡導入計画 - 15日食撮影用のフィルタを用意する」
「まさに神秘の天文現象 ? 2012年5月21日の金環日食」
「金環日食のクライマックスを13秒のビデオで」

 

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著者プロフィール

マイナビ出版 天体観測&撮影編集部(出版社)
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