1
書記と台帳の庭で犬たちが遊んでいるよ
すべて在来種だ、耳がぴんと立ち尾が巻いて
キャンキャンしたやつらだがその合唱は
白く光る雲にも届く美しい歌になる
光の犬たちと潑溂と歩きはじめて
角を曲がると「旅」を売っている文房具店があった
ハンガリー製の色鉛筆で書く文字はふわふわと
書くはじからシジミチョウのように飛び立つのだ
その隣では揚げ饅頭。その先にはバケツに
入れられたどぜうがたくさん、元気よく泳いでいる
まるで「五月の風に縮れ」るような蝶と泥鰌の動き
犬たちがどぜうを欲しがるが夕餉の支度にはまだ早い
それよりお祝いの電話をかけよう
タバコ屋の店先の薔薇のようなピンク色の公衆電話から
空で目をつぶるきみに声の花束を送ります
お誕生日おめでとう、ジェイン・ジェイコブズ
2
寺院に梵語の呪文が書かれている
そこに記されたとおりにわれわれの文字への
transcriptionを朗誦するといいと思う
病を祓い、目を澄ませるためにはね
ここは「真言」の村、真実のlogosの堂
言葉は声に乗って飛んでいく(verba volant…)
「め」とその鏡文字を左右に並べて
眼病からの回復を神=仏に祈るのか
さらに行くとそこに哲学の庭園がひろがる
門に良い心がけが記されている(scripta manent…)
「理想の馬に鞭打って絶対の峰に登るんだ」
「論理に棹させば舟は物と心の源へと遡るよ」
さらに川を渡るとそこでは賢人たちが
どこか法廷のような会議をくりひろげていた
アブラハムがなぜか必死に謝っている
エクナトンがおだやかに両の掌を上げている
5月4日は『アメリカ大都市の死と再生』の著者ジェイン・ジェイコブズの誕生日。これを記念して、中野周辺で学生たちと第1回「東京ジェインズ・ウォーク」を開催した。新井薬師から哲学堂公園、そして哲学の庭へ。頭の風通しがすっかりよくなったところで、この連作もおしまい。ありがとうございました!
2014.5.7