1
白い図書館の巨大な空間に
漆黒のワタリガラスたちが飛び交っている
知恵は知識はどこだとさんざん啼きながら
降り注ぐかれらの声が光を生むので
書物もまばゆく輝き出す
黒い髪の少女が机にむかったまま
必死に笑いをこらえている
一行ごとに開示される世界の秘密を
誰かに話したくてたまらないのだ
海峡のむこうに横たわる森の島に
新しい知識をもって渡って行こう
熊、鹿、狼がきみを出迎えて
きみの陽気な努力に感謝するだろう
ひとつの知識に換えてひとつの骨をあげよう
ひとつの心に換えてたくさんの記憶をあげよう
鴉色の髪のきみ、ワタリガラスの娘
2
歩道の路面にところどころ
小さな円形の鉄のプレートがはめこまれている
「ここに埋められている」という目印なのだ
この土地のもともとの植生をなすレッドシダー
シンブルベリーやツインフラワーなどの種子が
カプセルに入れられて目覚めを待つ
この都市の地表が荒れはてて
人間たちの街がいったんdeleteされた後
破局を生き延びた誰かがカプセルを掘り出して
「さあ目を覚まして」と声をかけるのか
ああこれは実物図書館だ、とぼくはつぶやいた
種子と名前、実物と表示
時を超えて芽生える草木の命が
この土地の言語を空へと打ち上げる
おとなしく整列したチューリップたちが
にこやかに発熱しながらカプセルを守っている
2014年4月9日、大学院時代をすごしたシアトル、ワシントン大学に滞在中。本のイメージにつきまとわれつつ、暁方ミセイさんに送信。
2014.4.16