シアトル


 

白い図書館の巨大な空間に

 

漆黒のワタリガラスたちが飛び交っている

 

知恵は知識はどこだとさんざん啼きながら

 

降り注ぐかれらの声が光を生むので

 

書物もまばゆく輝き出す

 

黒い髪の少女が机にむかったまま

 

必死に笑いをこらえている

 

一行ごとに開示される世界の秘密を

 

誰かに話したくてたまらないのだ

 

海峡のむこうに横たわる森の島に

 

新しい知識をもって渡って行こう

 

熊、鹿、狼がきみを出迎えて

 

きみの陽気な努力に感謝するだろう

 

ひとつの知識に換えてひとつの骨をあげよう

 

ひとつの心に換えてたくさんの記憶をあげよう

 

鴉色の髪のきみ、ワタリガラスの娘

 

 

 

 

歩道の路面にところどころ

 

小さな円形の鉄のプレートがはめこまれている

 

「ここに埋められている」という目印なのだ

 

この土地のもともとの植生をなすレッドシダー

 

シンブルベリーやツインフラワーなどの種子が

 

カプセルに入れられて目覚めを待つ

 

この都市の地表が荒れはてて

 

人間たちの街がいったんdeleteされた後

 

破局を生き延びた誰かがカプセルを掘り出して

 

「さあ目を覚まして」と声をかけるのか

 

ああこれは実物図書館だ、とぼくはつぶやいた

 

種子と名前、実物と表示

 

時を超えて芽生える草木の命が

 

この土地の言語を空へと打ち上げる

 

おとなしく整列したチューリップたちが

 

にこやかに発熱しながらカプセルを守っている

 

 

 

2014年4月9日、大学院時代をすごしたシアトル、ワシントン大学に滞在中。本のイメージにつきまとわれつつ、暁方ミセイさんに送信。

 

 

2014.4.16

 

カテゴリ: シーズン1, 遠いアトラス/石田瑞穂+管啓次郎+暁方ミセイ
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