マンハッタン


 

見てごらんさわってごらん、星が泣く公園で

 

緑灰色の岩肌に残る正確な線条が

 

この島が氷河に洗われていた時代の

 

澄み切った歌を刻んでいる

 

声なき歌だ、歌い手が誰もいなかったころの歌だ

 

初めから「歌」の中にあった「欠」の意味が

 

それでやっとわかる

 

それからこの土地にもヒトがやってきて

 

青空にむかって銀と金の子供を生みつづけた

 

川と海が接するきらめきの水質には

 

梨色の泥の美しさがよく映える

 

おびただしいカラス貝は石灰の無垢な果実

 

やわらかい貝の肉がヒトと鳥を養って

 

かれらの個体数は知らぬ間に激増した

 

ほら、春分の朝の冷たい太陽がさしてきた

 

気温が上がる、岩が鳴る、にぎやかな一万年がまた始まる

 

 

 

 

岩よ岩たちよ「主語せよ」

 

木よ木々よすべての木の葉よ「主語せよ」

 

ヒトのすべての悲嘆を蜜蜂のように笑いながら

 

鉱物は歓びをもって有機物にとりこまれてゆく

 

ぼくは島の全域を単独で調査することにした

 

この島では直線が強いられている

 

まず東西の平行線をすべて歩くだろう

 

ついで南北の長い軸をすべて歩くだろう

 

あきれるほどの平坦さを補正するかのように

 

ヒトが作り出した塔が信仰もなく林立する

 

それは空を削る主語なき彫刻

 

風音が「修辞のない魂」のようにわんわん泣いている

 

ほらまた鳥が飛んだ、きみのカリグラフィだ

 

ほらまた岩が吠えた、きみの連禱だ

 

鳥たちが勝手な場所に次々に卵を生んで

 

飛散する心の持ち主を爆発的に増やしてゆく

 

 

 

 

2014年3月21日、春分を迎えたニューヨーク>マンハッタン>ワシントン広場から。暁方ミセイさんに送信。

 

 

2014.3.25

 

 

 

カテゴリ: シーズン1, 遠いアトラス/石田瑞穂+管啓次郎+暁方ミセイ
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