1
見てごらんさわってごらん、星が泣く公園で
緑灰色の岩肌に残る正確な線条が
この島が氷河に洗われていた時代の
澄み切った歌を刻んでいる
声なき歌だ、歌い手が誰もいなかったころの歌だ
初めから「歌」の中にあった「欠」の意味が
それでやっとわかる
それからこの土地にもヒトがやってきて
青空にむかって銀と金の子供を生みつづけた
川と海が接するきらめきの水質には
梨色の泥の美しさがよく映える
おびただしいカラス貝は石灰の無垢な果実
やわらかい貝の肉がヒトと鳥を養って
かれらの個体数は知らぬ間に激増した
ほら、春分の朝の冷たい太陽がさしてきた
気温が上がる、岩が鳴る、にぎやかな一万年がまた始まる
2
岩よ岩たちよ「主語せよ」
木よ木々よすべての木の葉よ「主語せよ」
ヒトのすべての悲嘆を蜜蜂のように笑いながら
鉱物は歓びをもって有機物にとりこまれてゆく
ぼくは島の全域を単独で調査することにした
この島では直線が強いられている
まず東西の平行線をすべて歩くだろう
ついで南北の長い軸をすべて歩くだろう
あきれるほどの平坦さを補正するかのように
ヒトが作り出した塔が信仰もなく林立する
それは空を削る主語なき彫刻
風音が「修辞のない魂」のようにわんわん泣いている
ほらまた鳥が飛んだ、きみのカリグラフィだ
ほらまた岩が吠えた、きみの連禱だ
鳥たちが勝手な場所に次々に卵を生んで
飛散する心の持ち主を爆発的に増やしてゆく
2014年3月21日、春分を迎えたニューヨーク>マンハッタン>ワシントン広場から。暁方ミセイさんに送信。
2014.3.25