『海すずめ』でご当地映画をエンタメとして成立させた大森研一監督


愛媛県 宇和島を舞台に、僻地の人々に自転車で本を届ける市立図書館 自転車課の人々の姿を描いた映画『海すずめ』が2016年7月2日より公開されている。この作品を監督した大森研一氏にお話をうかがいました。

 

大森研一(映画監督)
1975年 愛媛県生まれ。大阪芸術大学卒。大学卒業後、自主映画制作を開始し、様々な国内の映画祭に入賞する。監督・脚本を担当した『ライトノベルの楽しい書き方』(2010年)で長編デビュー。他の作品に『恐怖新聞』(2011年)、テレビドラマ『水木しげるのゲゲゲの怪談』(2013年)、エンジェルロード脚本賞にてグランプリを受賞して制作された『瀬戸内海賊物語』(2014年)、『ポプラの秋』(2015年)などがある。最新作『海すずめ』が2016年7月2日より公開中。

 

── どのような経緯で本作を監督されることになったのでしょうか。

 

「『瀬戸内海賊物語』が公開していた約3年程前、ご当主様から”宇和島を舞台にした映画を作れたら”とお話いただき、さらに宇和島伊達400年祭を控えたタイミングというのもあり、一気にこの企画が動きだしました」

 

──愛媛の宇和島が舞台の映画ですが、いわゆるご当地映画とは違う印象がありました。

 

「そうですね。ご当主自身がプロデューサー的に資金集めにも協力してくださったりして、非常にレアなケースだと思います。その中で私は監督として、なぜこの映画を今撮るのか、どうしてこのような内容なのかが大切だと考えていました。ご当地映画として、地元の風景や文化を紹介するという側面がありつつも、地元で上映するだけではなく全国の皆さんに観ていただくためのクオリティに持っていくことが大切だったんです」

 

映画『海すずめ』
小説家として一度デビューしつつも2作目が書けないすずめ(武田梨奈)は愛媛県宇和島市立図書館の自転車課に勤務していた。自転車で街や島の様々な人々に本を届けるすずめは、宇和島伊達400年祭成功のため、幻の書物を探し奔走するのだった。
(C)2016「海すずめ」製作委員会

 

──現代が舞台の作品ですが歴史物としても本作は興味深いですね。東北の伊達家が四国で現在も続いているということを知らない人も多いと思うのですが、それを知るきっかけにもなる作品ですね。

 

「歴史に詳しい方でも、宇和島伊達家は分家と思っている方が多いんです。実は宇和島へ入部した伊達秀宗公こそが政宗の長男。宇和島伊達家とは、独立した大名なんです。それはまさに西国の伊達。ご当地映画としてそれを伝える意図もありました」

 

──映画では図書館の自転車課の物語が描かれていますが、非常にユニークな業務でした。自転車課は実在するのでしょうか。

 

「実はあれはフィクションです。歴史や史実の中に、エンタメ要素として唯一放り込んだのが、本を自転車で届ける自転車課という仕事なんです」

 

──主役の武田梨奈さんはアクション女優としてのイメージが強いのですが、本作では格闘シーンもなく、新鮮な印象がありました。

 

「確かにアクション女優としてのイメージも強かったのですが、それ以上に今回は武田さんの基礎体力の高さに驚かされました。撮影では、本当に長い距離を何度も自転車で走っていただきました。あれは普通の女優さんでは対応できなかった部分もあると思います」

 

──自転車課の3人のうちふたりは、栄光からの挫折を経験して地元に帰って来ています。前向きに仕事に取り組む部分と夢を諦めてしまった後ろ向きな部分が混在していて、非常にリアルに感じました。

 

「この映画で描いた彼らの姿は、どの地方でも共通する若者の姿だと思いますので、共感できる人も多いのではないでしょうか。主題歌の植村花菜さんにも非常に共感していただき、想いを込めた主題歌を作っていただけました」

 

── 地元から見た都会へ対する憧れや、都会で活躍する者への嫉妬のような感情も本作では描かれています。大森監督ご自身も地元から出て都会で活躍されていますが、こういった視線を実感することはあるのでしょうか。

 

「僕自身の場合は応援してくれる地元の人が多いので、本当に故郷に悪い印象はないです。ありがたいことに、自分の作品の公開前に仲間が必ず同窓会を開いて応援してくれるんですよ。本当に嬉しいです」

 

──監督の『瀬戸内海賊物語』に関して登場人物の台詞で語られるなど、他の作品とのリンクもありますね。

 

「それは個人的に意識しています。自分の作品同士でリンクをこっそりと意識して入れている部分はありますね」

 

──リンクという意味では、大森監督の近作には内藤剛志さんが必ず出演されていて、本作や『瀬戸内海賊物語』では主人公の父親を演じています。

 

「そうですね。完成した脚本は、早い段階で内藤さんに読んで頂いています。約束とまではおこがましいですが、僕が監督する作品にはいつも出ていただきたいという想いがあります」

 

──大森監督はこれからどのような映画を作っていきたいのでしょうか。

 

「ジャンルはまったく問わず、撮りたい作品は多いです。宇宙ものでも、ゾンビ映画でも何でも。また、本格的な時代劇は撮りたいですね。予算さえ成立するなら、時代劇は常に撮りたいと思っている題材です」

 

──四国の地元を舞台にした作品も多いのですが、地元へのこだわりはあるのでしょうか。

 

「撮影で地の利が活かせるという部分が多いですね。ロケハンひとつとっても、地元は知っている場所なので予算以上のことが出来ると思います。地元で映画を撮るというのは、プラスの部分が大きいですね」

 

──コンスタントに映画を撮られていますが、常に意識されていることがあったら教えてください

 

「僕は原作ものとオリジナルをほぼ交互に監督しているのですが、当然ながら作品のクオリティは絶対維持しつつ、1作ごとにレベルアップして行こうと意識しています。1年1作監督を続けるパワーは維持していきたいと思っています。少数でも、その作品ごとに自分の映画のファンになってくれる人は増やしていきたいとも考えて監督しています」

 

──予算規模の大きな大作を監督したというようなお気持ちはあるのでしょうか。

 

「正直ありますね。『海すずめ』ではプロデューサー的な役割も担当していますが、映画監督として身ひとつで大きな作品の現場にいて演出に専念したいという気持ちも常にありますね」

 

映画『海すずめ』は2016年7月2日より全国公開中です。

カテゴリ: 未分類