話題の人気マンガを実写化した映画『僕だけがいない街』


三部けいの人気漫画を実写化した映画『僕だけがいない街』が2016年3月19日より公開されます。この作品を監督したのは、数々の人気テレビドラマや映画を手掛けてきた平川雄一朗氏です。映画『僕だけがいない街』に関して平川氏にお話をうかがいました。

 

平川雄一朗 (映画監督)
1972年生まれ。大分県出身。オフィスクレッシェンドに所属し、多数のテレビドラマに参加。2003年、TBS『Stand Up!!』第7話で初演出を担当。その後もTBS制作の作品を中心に演出を担当。おもな演出・監督作品に『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)、『あいくるしい』(2005年)、『白夜行』(2006年)、『セーラー服と機関銃』(2006年)、『ROOKIES』(2008年)、『JIN -仁-』(2009年/2011年)、『とんび』(2013年)、『天皇の料理番』(2015年)などがある。2007年『そのときは彼によろしく』で劇場作品監督デビュー。主な映画監督作品に『陰日向に咲く』(2008年)、『ROOKIES ~卒業~』(2009年)、『ツナグ』(2012年)、『想いのこし』(2014年)などがある。最新監督作『僕だけがいない街』が2016年3月19日より公開。

 

──どのような経緯で本作を監督されることになったのでしょうか。

 

「あるプロデューサーから、面白い漫画があると原作を紹介されて読んだのです。1巻しか出ていない頃に読んだのですが、すぐに映画化したいと思いました。少ししてから、別のプロデューサーの方から映画化のお話をいただきました。」

 

──原作のどのような部分に魅力を感じたのでしょうか。

 

「最初はやはりリバイバルの謎でしたね。なぜ、リバイバルが起きているのかに興味を惹かれました。また、悟は事件に向かう中で、何気ない日常にちりばめられている、普通なら忘れてしまうような大切な事柄を見つけていきます。これに気づくことは、現代を生きる我々にとっても意味があることだと思い、映画化したいと思いました」

 

映画『僕だけがいない街』
売れない漫画家の藤沼悟は自分の意志とは無関係に「リバイバル」という時間を遡る特殊能力が発動してしまう。ある日、何かを目撃した悟の母親が殺害され、悟は容疑者となってしまう。悟はバイト仲間の愛梨の助力を得ながら、現代で殺害された母親と、過去に連続誘拐殺人事件の犠牲となった同級生を救うため、今のマインドのまま小学5年生だった頃の自分にリバイバルし、ふたつの事件の謎を解こうとするのだった。
(C)2016 映画「僕だけがいない街」製作委員会

 

──原作は全8巻で完結予定ですが、映画撮影中は未完でした。どのように原作との整合性を図って映画化を進めていったのでしょうか。

 

「実は撮影前に、原作の三部けいさんからエンディングまで書かれたプロット的なものを見せていただきました。それを踏まえた上で、『僕だけがいない街』という原作のタイトルの意味やテーマを、2時間の中でどのようにドラマとして収束させるか考えて映画化させていただきました」

 

──この作品はベースは前向きなSFでありながら、児童虐待、連続誘拐殺人、サイコパスなど、など重いテーマも含んでいます。

 

「映画の中で、原作のように犯人の深い闇までは描けないかもしれませんが、この世界のどにでも潜んでいる現代の闇までは描けるかもと思っていました。もちろん、それに立ち向かおうとする行動や力も……。映像だからこそ伝わるものもあると信じて撮っていました」

 

──リバイバルの瞬間の映像表現は、どのようにして劇中のような形になったのでしょうか。

 

「当初はCGなどを使わない何気ないタイムリープを目指したのですが、映画を観ている人には記号としてわかりやすくあるべきですし、登場人物の心情も反映されなくてはなりません。その融合として、劇中のような表現になりました」

 

──小学生の外見でありながら中身は30代という主人公の演出は非常に難しかったのではないでしょうか。

 

「それが映像の中で表現できたのは、こちらの指導に応えてくれた子役の中川翼君の努力のおかげです。彼の中に30代の藤沼悟を演じた藤原竜也さんが居る様に見えなければ、成立しなかったですね」

 

──また、リバイバルした過去で描かれる何気ない日常描写が、本当に愛おしく感じられました。

 

「原作の中にある日常の大切さを描きたかったんです。過去の舞台は北海道という寒々しい風景なのですが、人と人の絆の温かさを見せたかった。暗い闇があっても、人はそうであって欲しいという希望が僕の中にありました」

 

──原作は世界観も確立していて、非常に完成度も高い作品です。また、漫画ゆえ画として正解が出ている部分もあります。そういった完成度の高い原作ものを映画化するのは大変だったのではないでしょうか。

 

「いつもそれは感じるのですが、自分が思う原作の大切な魂を、自分というフィルターを通して観る人に伝えたいという気持ちがあるので、やりがいもあります。映像の中では、しっかりと生きている人々がいて、空気や風もあります。それは漫画や小説でなく、映像の持つ力でこそ表現できるもので、観客にも感じていただける部分だと思います。この映画では、観てくれた人皆が経験するであろう『僕だけがいない街』を描きたかったんです。タイトルの中で表現されている状況を、悲しいと思うのか希望と思うのかは人それぞれですが、希望を見出していただければ嬉しいです」

 

──平川監督は映画やテレビドラマを多数監督されています。それぞれを監督するときの、違いについて教えてください。

 

「テレビドラマはテレビと視聴者が一対一の関係で、ワンシーン、ワンカットに明確な答えが必要なんです。映画ではひとつの正解はなく、観客ごとの個別の違う答えがあれば良いと思います。それが大きな違いですね。映画では、問いを観客に投げかけられるのですが、テレビは正解を示してテレビの前に居ていただかないとならない。印象として、テレビドラマのほうが緊張を強いられますね。テレビドラマは撮影期間は長いのに短距離走的で瞬発力が必要です。映画は常に考え続ける長距離走といった感じです」

 

──これからも、テレビドラマと映画の両方を監督されていくのでしょうか。

 

「元々テレビッ子で、テレビドラマに対する思い入れは強いですし、お話をいただいた以上は、映画にも責任を持って接していきたいと思っています。テレビドラマと映画の両方で、世の中の人に面白いと思っていただけるものを作り続けたいですね。ただ、楽しいや気持ち良いだけでなく、心に残るものが観た中にないと救われないような気がするので、そこはこだわって監督していきたいですね。それが自分にとっての正義です」

 

映画『僕だけがいない街』は2016年3月19日より全国ロードショーです。

 

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