CM出身の柳沢翔監督が『星ガ丘ワンダーランド』で描いた世界とは


幻想的な風景に包まれた町 星ガ丘に暮らす人々の人間模様を描いた映画『星ガ丘ワンダーランド』が2016年3月5日より公開されます。この作品で監督デビューした柳沢翔氏にお話を伺いました。

 

柳沢翔(映画監督/CM監督)
1982年 神奈川県生まれ。多摩美術大学 美術学部卒業。2011年 THE DIRECTORS GUILDに所属。2004年、油彩画家として現代芸術家村上隆主催のアートコンペ(GEISAI3)にて銀賞受賞。グラフィティアートに日本画を織り交ぜた作風で活動後、CMディレクターに転身。2009年アジア太平洋パシフィック広告祭フィルム部門にてグランプリ受賞。2013年にマイケル・ジャクソンのアルバム『BAD』25周年を記念して日本のファン1000人と『REVIVING MJ』を制作。MJの公式ホームページにて特集される。2014年Googleと『ポケットモンスター』のコラボフィルム『Google maps Pokemon challenge』を監督。エイプリルフールに公開され、1日で1500万再生を記録。その年に世界でもっともシェアされたエイプリルフール動画として記録される。2015年 ポケモン、任天堂、Niantic Labが共同で開発したゲーム『POKEMON GO』の海外用コマーシャルがyoutubeで全世界合計2700万再生、資生堂のウェブムービー 『High School Girl ? メーク女子高生の秘密』が公開1ヶ月で800万再生など、多くの監督作品が話題となる。2016年3月5日公開の『星ガ丘ワンダーランド』で映画監督デビュー。

 

──どのような経緯で本作を監督することになったのでしょうか。

 

「中村倫也さん主演で映画を作りたいという企画があり、僕に監督の依頼が来たんです。元々、僕はプロデューサーの前田浩子さんにLINE上のやり取りを発端にした殺人事件を題材にした企画を出していたのですが、それが壊れた家族が再生するという話に発展して、本作の形になりました」

 

──デビュー作で監督としてどのようなことをやりたかったのでしょうか。

 

「漠然とセリフが少ない映画にしたいという気持ちがあり、それに対してどう話を作っていくかがポイントでした。アート映画ではないのですが、余白があるというか、答えがあやふやな映画にしたかったんです。プロデューサーは僕のそんな希望や資質をわかってくれていたようで、最初に『あなたを映画監督に育てることができるかはわからないけれど、映像作家にはできる』と言われたのが印象的でした」

 

映画『星ガ丘ワンダーランド』
20年前、母親と生き別れた温人は地元「星ガ丘駅」の駅員として働いていた。駅には落し物預かり所があり、落し物を発端に温人と地元の人々の間では、様々な出来事が起きていた。ある日、町にある廃墟となった遊園地「星ガ丘ワンダーランド」で、温人の母親の変死体が発見される。この町で新しい家庭を持ち幸せに暮らしていたはずの母に、何が起きたのだろうか。
(C)2015「星ガ丘ワンダーランド」製作委員会

──映像自体はCM的というか非常に牧歌的でファンタジックなのですが、描かれる人間模様は極めて生々しいですね。

 

「そのバランスは意識していました。ファンタジックなムードの中にも生々しい感じを出して、大人が読む絵本のようにしたいという意図はありました」

 

──過去の呪縛というか、人と離れたり別れる事が本作では重要なテーマとなっています。

 

「自分にとって一番怖いのが、家族や友達など、身近な人がいなくなることなんです。今一緒にいても、いなくなったことを考えて怖くなってしまいます。それは自分で乗り越えるしかないことで、この映画の中ではそれを親離れや子離れという形で描いています」

 

──生々しい人間の姿が描かれつつも、邦画的なわかりやす過ぎる答えや説明描写は少なく、本当に余白のある作品です。

 

「答えを出さないというか、人をひとつの見方=真正面からだけで見たく無かったんだと思います。この映画で人物を撮影するとき、ほとんど正面では撮らないようにしていました。そういった部分にも人物に対する見方が現れていると思います」

 

──この映画での柳沢監督のそういった表現は、本質をわかりやすく短時間で伝えなければならないCMとは逆の要素もあると思います。ご自身の中で使い分けはできていたのでしょうか。

 

「CMを撮る時とは分けていたつもりですが、それができずに苦労しましたね。撮影中も編集中も、自分の表現が伝わるのか不安でした。最終的には『伝えるのではなく予感させる』演出を意識する様になりました」

 

──初めて映画監督をされて、CMへフィードバックできる部分はありましたか。

 

「沢山ありました。CMではどうしても役者さんはお客さん的な感があるのですが、映画では役者さんと監督の距離が非常に近く、一緒に作品を作っているという実感がありました。その関係性をCMの現場でも取り入れて、なるべく役者さんとコミュニケーションを密にして撮るように心がけています」

 

──これからも柳沢監督は映画を撮るのでしょうか。また、映画監督の魅力を教えてください。

 

「これからもCMだけでなく映画を撮りたいですし、具体的な企画も進行しています。僕世代のCMディレクターは、仕事としてCMを撮り、自己表現としていつか映画を撮りたいという理想を持っている人も多いと思います。ただ、当たり前ですが現場に行ったら映画も完全に仕事です。両方体験して思うのは、どちらも仕事を通しての社会への自己表現なのですが、映画のほうが自分の中からの発信する部分が凄く多いですし、完成したときのカタルシスは大きかったですね」

 

映画『星ガ丘ワンダーランド』は2016年3月5日より公開です。

 

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