角川映画の歴史に残る名作『セーラー服と機関銃』。この名作の続編的な物語が橋本環奈を主演に迎え『セーラー服と機関銃 -卒業-』として新たに映画化され、3月5日(土)より公開されます。この作品を監督した前田弘二氏にお話をうかがいました。

前田弘二 (映画監督)
1978年、鹿児島出身。自主製作短編『女』、『鵜野』でひろしま映像展2005グランプリ、演技賞のW受賞。『古奈子は男選びが悪い』で第10会水戸短編映像祭グランプリ受賞。2011年『婚前特急』で劇場公開作品の監督としてデビュー。第33回ヨコハマ映画祭新人監督賞、第21回日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞、第3回TAMA映画賞を受賞。その他の監督作品に『わたしのハワイの歩きかた』(2014年)、『夫婦フーフー日記』(2015年)など。最新作『セーラー服と機関銃 -卒業-』が3月5日(土)より公開。
──これまで映画やテレビで何度も映像化された『セーラー服と機関銃』を監督されることになった経緯を教えてください。
「約3年前にプロデューサーさんから『セーラー服と機関銃』の続編をやらないかという話をいただきました。恋愛コメディ系を多く撮っていた私に、なぜ依頼が来たのかは疑問でしたが、相米慎二監督の『セーラー服と機関銃』は大好きな映画でしたし、これまでにない挑戦なのでやってみようと思ったんです」
──タイトルに「卒業」とありますが、そこに込めた意図や思いを聞かせてください。
「元々原作のタイトルにも『卒業』と言葉が入っており、様々な体験や出会いを通して星泉が変化していく物語でもあるのですが、本作で何を以って『卒業』なのかは、私自身撮影を通して感じて行こうと思っていました。スタッフも含め最初から答えは決めずに、星泉を通して、登場人物である目高組若頭の土井、目高組組員 祐次・晴雄のコンビ、浜口組の月永などへの想いを読み取っていきながら、『卒業』とは何なのかを考えていきました」
──これまでに映像化された同名作の映画やテレビドラマの印象を聞かせてください。また、新作では既存作品とどのような違いを出そうとしたのですか。
「どの作品も、”少女が大人の世界を体験するという事”を描いた作品だと思います。その部分はもちろん本作にもあるのですが、一番違うところは”時代”だと思います。薬師丸ひろ子さんの『セーラー服と機関銃』に関しては、当時10代の薬師丸さんの、その瞬間でしか撮れないものがたくさん入り込んでいる作品だと思いました。本作でも、橋本環奈さんの今しか撮れないかけがえのない瞬間を、いかに映像に収めるかを考えました。また前作では、覚醒剤やドラッグが時代の象徴となっていて、最後そこに向かって機関銃を撃っていました。本作では、何に向かって機関銃をブッ放すのかという部分を、現代でどう打ち出すべきか考えました。そこで、ホリウチ都市デザイン社長である安井のキャラにも通ずるのですが、何が善悪か分からない、世の中そういうものだという何かモヤっとしたものに対して、物申したいという思いを込めました」

映画『セーラー服と機関銃 -卒業-』
女子高生 星泉は一年前まで亡き伯父から引き継いだ弱小組織 目高組の四代目組長としてヤクザの頭を張っていた。敵対する浜口組に、「地元商店街には手出しをしない」という協定を結ばさせ組を解散させた泉は、元組員たちとカフェを経営していた。一方、町では何者かが麻薬クッキーを流通させ、女子高生が命を落とす事件が起きるのだった……。
(C)2016「セーラー服と機関銃 -卒業-」製作委員会
──本作のストーリーやキャラクター設定は非常に現代的にリビルドされています。原作のどのような部分を活かし、また逆にどのような新しい要素を入れようと意識したのでしょうか。
「既にヤクザになり機関銃をぶっ放して、組を解散した後から始まっているという、ひとつの枠を飛び越えた後の設定でしたが、前作を知らなくても1本の映画として楽しめる作品でないといけないと思いました。泉は組長と、普通の子でもあるという2面性も持ちつつ、追い込まれながらも這い上がっていくという部分が時代の違いでもあるし、新しい要素でもあると思います。また本作では、学校の世界や、ヤクザの世界があったり、メダカカフェなどの様々なシュチュエーションがあります。それぞれがコメディもの、学園もの、ヤクザものという感じで、ヤクザシーンを撮った翌日は、学園シーンを撮影していたりして、日々違うジャンルの映画を撮っているような感じがありました。ジャンルの壁を越えて、1本の映画で色々な面を見せていきながらも、中心には泉がいて垣根を飛び超えてどの世界にも馴染んでいくという遊びが出来ればと思いました」
──主演の橋本環奈さんに関して。女優としての魅力についてお聞かせください。
「最初会った時に感じたのは、根性もあるし思いっきり映画にダイブできるというか、捨て身でやる人という印象を受けました。撮影でも実際そうで、たくさんの素晴らしい俳優さん達の前でも、堂々としているし、度胸がありましたね。激しい口喧嘩のシーンも難なくこなしていくので、演出していて凄く面白かったです。リハーサルでも、そうだったのですが、色々な表情を生み出してくるので、もっと違う一面が見たいなと感じました。スタッフ同士でも『今日はこういう表情が撮れたね』とか、『また違う表情が撮れた』と毎日語れるのが楽しかったです。そういう意味で、内面から出てきた色々な表情が彼女の一番の魅力だと思いました」
──劇中で銃撃戦など激しいアクションシーンがありましたが、いかがでしたか。
「アクションシーンはすごく楽しかったですね。映画館で襲われるシーン、ナイトクラブ、ホリウチ都市デザインの事務所とそれぞれ違うシチュエーションでアクションがありました。狭い場所で誰が敵か味方か分からない大混乱状態があったり、幻影が見えてくるようなシーンだったり、後半はドラキュラ映画じゃないけどファンタジックに飛ばしてみたり、ジャンルを飛び超えてではないですが、アクション自体も色々な見せ方が出来たら面白いと思いました。角川映画的というか、びっくり箱を開いたような遊び心は意識していたのかもしれません」
──確かに本作は角川伝統のプログラムピクチャーといえると思います。そのように成立させるために監督として意識した部分は?
「まず主人公が映える事かなと思いました。どの角川映画もヒロインが輝いていますし、現実ではありえないかもしれないけど、未知の世界に入り込んで成長していく、そういう部分はしっかり抑えていきたいなと思いました。それでありながら、役を演じていく上で、色んな表情が見えてくる作品になれば良いと思っていました」
──監督は若い女性を描くことが得意という印象がありますが、今回は特に若い女性が主人公の作品です。
「若い女性を撮ることが得意とは思っていません。あまり女性だからとか、男性だからとか変に意識しないようしていますね。女性といっても人によって違いますし、男性でも、『男はこうだよね』というように一概には言えません。女性のここを撮らないとか、女性はこれを言わないとか先入観で考えず、こうしたら面白いというのを大事にしていきたいと思っています。今回は橋本さんが主人公という事で、彼女が主演である事に意味あると思うので、彼女が持つ魅力を映画として光らせていければ良いと思っていました」
──より大人の女性や、男性を主人公とした作品へ興味はありますか。
「もちろんあります。人の魅力は年齢とは関係なくあると思うので、年齢や性別にこだわりはないです。人物を掘り起こすのは面白いですし、結局人ってわからないなと言う部分があるので、これからも色々挑戦したいなとは思っています。」
──青春映画や恋愛映画以外で、監督として興味のあるジャンルを教えてください。
「これまで撮った事のないジャンルを撮りたいなと思っています。自分の作品が『こうだな』というのを決めたらつまらないと思っているので、今までやっていない事に挑戦していきたいですね。強いて言うならコメディには興味がありますが、今回のように『これは挑戦だ』と思える作品は是非監督してみたいですね」
映画『セーラー服と機関銃 -卒業-』は3月5日(土)より公開です。
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