伝説的なギャグ漫画『珍遊記』を映画化した山口雄大監督


漫☆画太郎の伝説的なギャグ漫画『珍遊記 ~太郎とゆかいな仲間たち~』を原作とした映画『珍遊記』が2016年2月27日より公開されます。この作品を監督した山口雄大氏にお話をうかがいました。

 

山口雄大 (映画監督)
1971年 東京都出身。日本映画学校卒業(現・日本映画大学)。2003年、漫☆画太郎の『地獄甲子園』を映画化し、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ヤングコンペ部門グランプリ受賞。その後も『漫☆画太郎 SHOW ババアゾーン(他)』(2004年)、『魁!! クロマティ高校 THE☆MOVIE』(2005年)、『激情版エリートヤンキー三郎』(2009年)など、「映像化不可能」と言われるコミックを次々と実写化。その他の監督作品に『極道兵器』(2011年)、『デッドボール』(2011年)など多数。2013年、『アブダクティ』でブリュッセル国際ファンタスティック映画祭 準グランプリ受賞。最新作『珍遊記』が2016年2月27日より公開される。

 

──どのような経緯で本作を実写化することになったのでしょうか。

 

「 元々はDLEのプロデューサーさんから依頼があったんです。僕は漫☆画太郎さんの過去の作品を実写化していた縁もありましたが、実は『珍遊記』の実写化は厳しいと感じていました」

 

──それはどのような部分でしょうか。

 

「舞台が中国でキャラクターが三頭身という点ですね。『地獄甲子園』なら坂口拓を高校生と言い切って映画化できたのですが、『珍遊記』の場合、小人か子供じゃないとビジュアル的にも厳しいと思いました。ただ、他の人が映画化した『珍遊記』は観たくなかったので、監督を引き受けることにしたんです」

 

──企画当初は原作を忠実に再現しようとしていたのですか。

 

「子供をリアルにキャスティングすることを検討したのですが、子供ではリアルに見えても笑いを起こすのは難しいので断念しました。山田太郎役が松山ケンイチさんに決まるまでは大変でしたね」

 

映画『珍遊記』
天竺を目指して旅を続ける坊主・玄奘は偶然立ち寄った家のじじいとばばあに無敵の不良少年 山田太郎を更生させて欲しいと頼まれる。宝珠の力で山田太郎の妖力を封印した玄奘は、天竺を目指して山田太郎と旅することになるのだった。
(C)漫☆画太郎/集英社・「珍遊記」製作委員会

 

──松山さんは意外すぎるキャスティングでした。

 

「『ユメ十夜』というオムニバス作品で松山さん主演、漫☆画太郎さん脚色で作品を作った縁もあったのですが、企画が企画なので慎重に話を進めていきました。主演に松山さんが決まったことで、他のキャストも有名な方が決まっていったという思わぬ効果もありました。意外性があるキャスティングだとは思いますが、”松山ケンイチならやってくれるだろう”というこの人の信頼度というか安定感は本当に凄いです。松山さんが演じたクラウザーさんやLはある意味似ていたのですが、今回の山田太郎はビジュアル的に似ていないのに、山田太郎として成立しているのが、さすがでしたね」

 

──楽屋オチ的なギャグ映画でなく、誰もが楽しめるような王道の作品に仕上がっていたので、非常に驚きました。

 

「最初は不細工芸人と呼ばれる方を多数出すようなバラエティの延長のような映画を考えていたのですが、メジャーなものにしたいという意識が強くなっていったんです。漫☆画太郎さんからは、『原作を無視しても、メジャーでヒットできるような作品にしてくれ』と言われ、自分でもそんな気持ちがありました」

 

──玄奘さんが、女性になったのも原作からの大きな変更点です。

 

「『西遊記』のルーティンに乗り、玄奘さんは女性にしました。女性の玄奘さんとオリジナルキャラクター 龍翔との関係でお話を作っていきたいと思ったんです」

 

──オリジナル要素を盛り込みつつも、原作のどのような部分を残したいと考えていたのでしょうか。

 

「酒場のバトルシーンと中村泰造との対決ですね。僕の中で、原作と違う展開でも、構成や終わり方は一緒というのを最低限守りたいと決めていました。ただ、原作ではほとんど話がなくて、酒場で延々と戦っています。これは、週刊連載なら可能なギャグですが、映画では難しい。山田太郎は主人公ですがキャラクター的にお話を作れないので、自然と玄奘さんが話の軸になりました」

 

──画面というか、街中の画が非常に豪華だったのも印象的でした。

 

「原作のあの風景を映像化するために、韓国のオープンセットで撮影しました。ギャグの冒険ものとして『勇者ヨシヒコ』の存在を意識したんです。あの作品の分かってやっている狙ったチープさとは逆に、くだらないことをやるが映像は本格的というのを目指したんです。画を安っぽくするのはじつは簡単ですし、これまでもやっていることなので」

 

──ギャグ表現に関しても、さじ加減が難しかったのではないでしょうか。

 

「確かにさじ加減は重要でした。本作は小学生が楽しんで観れる映画にしたかったので、PGなどの指定なしの作品にするというテーマがありました。うんこでもちんちんでも、汚いと感じる下ネタギャグにならないよう、子供が笑える描写を目指してました」

 

──原作が掲載されていた週刊少年ジャンプは小中学生も楽しみますが、漫☆画太郎さんの映画はジャンルムービーとして大人が楽しんでいる傾向があります。

 

「そういう意味では、今回の作品はコアな映画ファンや漫☆画太郎ファン以上に、普通の子供向けの映画と言えると思います。漫☆画太郎さんはサブカルに見えつつも、実は王道が好きな方なんです。本質はチャイルディッシュで王道なのに、画風でサブカルと思われている部分があります。『珍遊記』は漫☆画太郎さんの作品の中でも特に王道の作品なので、サブカルより王道を強く意識しました」

 

──これから山口監督はどのような作品を作っていきたいのでしょうか。

 

「映画でしか描けないことをやりたいですね。現実に起こることを切り取るのは興味がないんです。これからも、できるだけ現実から離れたことを描きたい。映像化が無理だろうといわれる作品を映画化していくような監督でいたいですね」

 

映画『珍遊記』は2016年2月27日より公開されます。

 

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