『マンガ肉と僕』で奇妙な人間関係を描いた杉野希妃監督


闇を抱えた男と女の、数年に渡る不思議な人間関係を新鮮なタッチで描いた『マンガ肉と僕』が2016年2月13日より公開されます。この作品の主演し、監督デビューも果たした女優 杉野希妃さんにお話をうかがいました。

 

杉野希妃 (女優/映画監督)
1984年生まれ。広島県出身。慶応義塾大学在学中に韓国留学。2005年、韓国映画『まぶしい1日』の「宝島編」で主演デビュー。帰国後『クリアネス』(2008年)に主演。2008年より映画プロデュースも開始。主演兼プロデュースを担当した深田晃司監督の『歓待』(2010年)で、第23回東京国際映画祭日本映画・ある視点部門作品賞など受賞。主な出演作品に『絶対の愛』(2006年)、『おだやかな日常』(2012年) 、『インターミッション』(2013年)、『ほとりの朔子』(2014年)など多数。長編初監督作品『マンガ肉と僕』が2016年2月13日より公開予定。監督第2作品に『欲動』(2014年)で釜山国際映画祭新人監督賞受賞。

 

──杉野さんは本作で監督デビューを果たしました。女優としては以前から活動されていましたが、元々監督志向があったのでしょうか。

 

「韓国でキム・ギドク監督の『絶対の愛』に出演させていただいたとき、”君は自分で作ったほうが良いよ”と監督から言われたんです。その頃はまだぼんやりとしていましたが、自分の映画に対する見方や向き合い方は、ただ仕事を待つというだけでは満足できないものだとは思っていました。それからプロデュースを手掛けるようになり、いつかは自分で映画を監督したいと思うようになりました」

 

──女優としてご活躍されつつも、演じるだけでは満足できなかったのですね。

 

「声をかけていただき演じることは本当に大好きなのですが、自分が演じてみたい役や出てみたい作品は自分で作ったほうが早いので、自然とプロデュースして監督するようになったんです」

 

──日本では、映画監督として活動されている女優さんは非常に少数です。

 

「そうですね。でも、私自身変わったことをしているとは思っていません。プロデュースをするようになってから、世界の様々な映画祭に参加させていただいているのですが、プロデュース、監督、俳優を自分でやるというのは世界では決して珍しいことではないのです」

 

映画『マンガ肉と僕』
気が弱く引っ込み思案の青年ワタベ(三浦貴大)は、同じ大学に通う太った女性 熊堀サトミ(杉野希妃)に差別なく接していた。しかし、そんなワタベの優しさにつけこんだサトミは、「二人の関係を周囲にばらす」と彼を脅迫し、彼のアパートに居座るのだった。
(C)吉本興業

 

──どのようなきっかけで『マンガ肉と僕』を映画化することになったのでしょうか。

 

「プロデュースして主演した『おだやかな日常』で沖縄国際映画祭クリエーターズファクトリー部門のニュークリエーター賞と女優賞をいただいたことをきっかけに、吉本興業さんから声をかけていただきました。R18文学賞の作品を映画化するという企画があり、その候補作を読むことになったんです。『マンガ肉と僕』が映画化されたら面白いなと思っていたら、この作品がR18文学賞大賞をとり、監督をすることになりました」

 

──この作品では、どのようなことを描きたかったのでしょうか。

 

「自分が予期せぬ得体の知れない存在と出会ったとき、人はどうするのかを描きたいと常々思っています。また女性性とは何なのかというのもテーマです。ただ、この作品は私の主張を押し付けるようなものではなく、それらについて模索する作品だと思っています」
 

──女性性という部分に関してですが、本作の主人公サトミは、美女であるにも関わらず、男から自分を守るために進んで醜い容姿になるという複雑なキャラクターです。ご自身でサトミを演じられていかがでしたか。

 

「愛おしくもあり哀れでもあり、色んな意味で共感しました。何かに抗うために両極端な行動に出ることは、自分にもありますし、『欲動』なども含めて、これまでは作品と自分に少し距離感があったのですが、本作は等身大の自分が詰まっていますし、自分自身と言い切れる存在です」

 

──太ったサトミの姿が特殊メイクで表現され、コミカルな過食のシーンも描かれます。

 

「観てくれる方に余白は残したいので、過剰な演技はあまり好きではないのですが、表現として過剰にしないと、メタファーとして伝わらないという想いがありました。そのギリギリを描きたかったので、あのようなマンガ肉をひたすら食べるという描写も入れました」

 

──恋愛映画として観ると、本作では人が出会うことで不幸に向かっていきます。人間関係の残酷さという意味で、殺人も暴力もないのに、非常に過激な作品だという印象もあります。

 

「人ってお互いに与え与えられつつ、何かを犠牲にしていると思うのです。そのサイクルが上手くいかずに破綻が起きている様子を描きたかったんです」

 

──再会した相手が期待していた姿でなかったり、期待通りの反応を見せないなど、非常に一方通行な他人への期待や失望が描かれています。

 

「私はそれが当たり前だと思っています。恋人どころか、家族ですら100パーセントわかり合えないですし、そういった当たり前のことを、当たり前に描きたかったんです。わかり合えないということを前提に、どうコミュニケーションをとっていくのかが大切なのだと思います。いったん否定した上で構築するというか、物凄く悲観した上で楽観に至る感じですね」

 

──これから杉野さんはどのような活動をされていくのでしょうか。

 

「『マンガ肉と僕』はとても刺激的な現場だったので、これからも映画監督をやっていきたいですし、役者としても色んなキャラクターに挑戦したいですね。やりたいことが多くて、困っています」

 

──杉野さんはいわゆる人間ドラマと呼ばれる作品を多くプロデュースして出演されていますが、他に関心のあるジャンルなどはありますか。

 

「私にとって映画に関わることは、人間関係を描くというよりも、未知との遭遇といった感じなんです。宇宙のどこかに旅するようなもので、自分が知らない世界を知ったり、それに触れたりするために演技したり監督しているのです。これからもそれが出来るなら、ジャンルにはこだわらないですね」

 

映画『マンガ肉と僕』は2016年2月11日より先行上映、2月13日より全国順次公開です。

 

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