人間と猫の温かい絆を描いた『猫なんかよんでもこない。』


人間と猫の温かい絆を描いた『猫なんかよんでもこない。』が1月30日より公開されます。元ボクサーの漫画家 杉作氏が描いた同名実話漫画を映画化した山本透監督にお話を伺いました。


 

山本透 (映画監督)
1969年 東京都出身。大学卒業後、TV番組制作会社勤務を経てフリーランスの助監督となり、山崎貴、利重剛、平山秀幸、中村義洋などの作品に参加。『キズモモ。』(2008年)で監督デビュー。その他の監督作品に『グッモーエビアン!』(2012年)、『探検隊の栄光』(2015年)がある、最新作『猫なんかよんでもこない。』が1月30日より公開。

 

──この作品は同名の実話漫画を映画化したものです。原作のどのような部分に魅力を感じて映画化されたのでしょうか。

 

「実は原作の1巻が出たときに漫画を読んでいました。単なる愛玩動物としての猫ではなく、生き物として人間と猫が対等というか、そんな関係を淡々と描いていて良いと思っていました。猫好きでもないボクサーがそのまま漫画家になったという実話も非常に面白かったですね。原作では作者と猫の長い物語が描かれていますが、映画では作者が漫画家として成功する直前までを描きたいと思いました」

 

──実話日記漫画は独特の平熱感を持っています。映画として、物語の盛り上がりやクライマックスの作り方で苦労されたのではないでしょうか。

 

「原作にもある淡々とした日常感を描きたかったので、あえてアレンジはしなかったですね。一人の人間が歩いて生きていける範囲の中で、何があるのかということを描きたかったんです。ただ、日常をフラットに考えると、プロボクサーが漫画家になるというのは、非常にドラマチックなことなので、そこに至る道はしっかりと描きたいと意識していました」

 

映画『猫なんかよんでもこない。』
漫画家の兄(つるの剛士)と同居生活を送るボクサーの杉田ミツオ(風間俊介)は、兄が拾ってきた子猫チンとクロの世話をすることなる。猫の世話をしながらボクシングに打ち込むミツオだったが、とある出来事で生活が大きく一変する事となる。
(C)2015杉作・実業之日本社/「猫なんかよんでもこない。」製作委員会

 

──何よりも、猫の撮影が大変だったのではないでしょうか。

 

「助監督時代が長かったので、動物が登場するシチュエーションの経験はかなりあり、猫の撮影は特に難しいということはわかっていました。自分でも猫を飼っていますし、猫に何が出来るか、出来ないかもわかります。猫好きの人が映画を観た瞬間に、猫が本当にリラックスしているか、緊張しているかは、わかってしまいます。その点は気を遣いました。猫をどれだけ現場に慣れさせて、自然な表情を撮れるかが勝負でしたね」

 

──本作は単に猫が映っているだけでなく、役者と同じフレームにいるシーンが多い映画ですね。

 

「役者には、猫がどう動いても演技を続けてもらうように指示しました。猫の動きが変わって、それに俳優が対応することで、より良くなったシーンもあります。逆に狙った画のために、ひたすら猫をじっくり待った時もありました」

 

──一番撮影が大変だったのは、どのようなシーンでしょうか。

 

「やはり序盤の子猫のシーン全てですね。子猫2匹がメインなので、非常に難易度が高かったです。フレームの中に2匹を収めるだけでも大変なのに、5秒いてくれないんです」

 

──この作品をどのように楽しんで欲しいですか。

 

「動物と暮らすことは決して楽しいことだけではないのですが、それでも一緒に暮らす喜びに関して、観てくださった方々が感じたり考えてくださると嬉しいですね。また、この作品は、一人の人間が傷を癒やし、前に進もうとする希望の物語でもあります。誰が見ても心が暖かくなると信じて作っています」

 

──ひとりの人間の挫折と成長の物語の中心に猫がいるというのも非常に珍しいですよね。

 

「本当に大きな部分を猫に担ってもらいました。これまでも、動物を真ん中に据えてるようで、実はそうでない作品もあったと思うのですが、この映画では本当に猫が真ん中にいると思います」

 

──監督の作品の根底に共通してある人間賛歌的な部分に関して訊かせてください。本作にもいわゆる悪人は登場しませんね。

 

「このままやり続けられるかどうかわからないですが、僕は正直な話、人間の闇を描くということには興味がないんです。お金を払って映画館に行った人がハッピーになって劇場を出てくるような作品を作りたいんですよ」

 

──確かに最近は、人間の闇や負の部分を描いた作品が増えているような気もします。

 

「だからこそハッピーエンドにはこだわりたいし、明日頑張ろうという気持ちになれるような映画を撮りたいですね。自分なりの新しい切り口を入れる必要はありますが、その時代に合わせるのではなく、いつか自分の子供や孫が見ても古臭く思わないような普遍的な作品を撮っていきたいですね」

 

映画『猫なんかよんでもこない。』は1月30日より全国公開です。

 

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