脇役俳優の悲喜を描いた映画『俳優 亀岡拓次』とは


『ウルトラミラクルラブストーリー』を監督した横浜聡子氏の最新作『俳優 亀岡拓次』が1月30日より公開されます。Creative Nowでは、俳優であり小説家でもある戌井昭人氏の原作を映画化したこの作品について、横浜聡子監督にお話を伺いました。


 
 

横浜聡子 (映画監督)
1978年生まれ。大学卒業後、東京で1年間OLをした後、2002年に映画美学校入学。卒業制作の短編『ちえみちゃんとこっくんぱっちょ』で2006年CO2オープンコンペ部門最優秀賞受賞。同年制作した『ジャーマン+雨』が、自主映画としては異例の全国公開となる。同作で2007年度日本監督協会新人賞受賞。2008年、『ウルトラミラクルラブストーリー』を監督。最新作『俳優 亀岡拓次』 が2016年1月30日よりロードショー。

 

──前作『ウルトラミラクルラブストーリー』から本作まで、かなり間が開いていますね。

 

「いくつか企画があったのですが撮影までなかなかたどり着けず、だいぶ時間が空いてしまいました」

 

──どのような経緯で本作を監督することになったのでしょうか。

 

「戌井昭人さんの同名小説を映画化したいというお話をプロデューサーからいただきました。戌井さんご本人とももともと知り合いで、他の著作も読んでいたので馴染み深かったですね。小説を読んでとても面白かったので、ぜひ監督をやりたいですと言いました」

 

──本作はひとりの脇役俳優を主人公にした物語です。俳優の仕事ぶりや映画制作現場の様子も描写されるなど、メタフィクションのような構造になっています。

 

「この映画は亀岡の旅の映画でもあるんです。東京~長野~異国の砂漠と、亀岡は仕事でいろいろな場所を旅します。それと同時に亀岡の脳内の旅でもあります。亀岡の頭の中に不意に好きな映画のシーンが浮かんできて、その登場人物になりきったりします。この作品では、あえて現実と幻想の境を明確にせず、日常とフィクションはいつも繋がっているということをやりたかったんです」

 

映画『俳優 亀岡拓次』
37歳の亀岡拓次(安田顕)は脇役として活動している俳優だ。泥棒、チンピラ、ホームレスなど、様々役を演じ、現場に奇跡を呼ぶ「最強の脇役」とも言われている。どんな仕事でも職人的に引き受け、プライベートは地味に過ごす亀岡だったが、撮影で訪れた長野でひとりの女性に恋をするのだった。
(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

 

──主役の亀岡拓次を演じた安田顕さんは、亀岡拓次そのものという印象です。

 

「亀岡は役者として評価は高いのですが、特筆する取柄がありません。そんな一見するとなんということもない人が、場所を変えながら淡々と生きている面白さを、安田さんが表現してくださったと思っています」

 

──『ウルトラミラクルラブストーリー』では強烈キャラクターの主人公が物語を牽引していました。本作は主人公 亀岡が受け身な分、周囲のキャラクターが非常にユニークです。亀岡の俳優仲間である宇野泰平役の宇野祥平さんは、横浜監督の短編作品にもよく出演されていますね。

 

「この映画の亀岡と宇野は合わせ鏡のような存在です。安田さんと宇野さんが並ぶことで、観ている人にそう感じさせられたら面白いのではという意図がありました」

 

──映画監督役としても、様々な俳優さんが登場しています。

 

「数々の現場でいろいろな監督を見てきた俳優さんが演じる監督って、どうなるんだろうと期待しました。みなさんが思う”監督像”はそれぞれ違って、とても面白かったです」

 

──深い映画愛や現場愛を感じる作品でもあるのですが、映画製作の現場そのもを描くということに関して、ためらいはありませんでしたか。

 

「特にためらいはなかったのですが、本物のカメラや照明のほかに、また別にカメラや照明、スタッフ役を用意してそれを映さなければならないので、撮影現場を撮るという構図は難しかったですね。スタッフ役にはエキストラのかたもいたんですが、とても演技が上手で本物にしか見えませんでした」

 

──本作では俳優という仕事や映画製作現場だけでなく、恋愛も描かれています。『ウルトラミラクルラブストーリー』もそうだったのですが、横浜監督の作品では、恋愛当事者と対象者の温度差が残酷なまでに明確に描かれます。

 

「知り合いの男性の話を聞いていると、女性からの笑顔を自分だけに向けられたものと勘違いしている人が多いように感じて。そういう哀しさというか面白さには、こだわりました。男の人の、そんな単純でポジティブな部分が愛らしいと思っているので」

 

──本作の亀岡はある意味俳優として完成しています。一見すると、作品内で亀岡自身にドラマチックな変化や成長は訪れません。

 

「例えばハリウッド映画では、主人公にはメインとなる欲望や葛藤があり、それに対してどういう態度を取り変化していくかというのが基本的な考え方ですが、そういう図式でなくても映画は成立します。変わらないように見えて、亀岡もその都度変化しながら生きているのだと思います。これからの亀岡の人生はこの映画と地続きで、急に明るい未来が開けるわけではない。きっとまた、どこかで恋をして振られる。それを観客に感じさせることができれば成功だと思っています」

 

──これから横浜監督はどのような作品を作っていきたいのでしょうか。

 

「そんなに間を空けないで、亀岡のようにコンスタントに仕事をしていきたいですね(笑)。撮りたい題材は沢山あるのですが、先ほどお話したハリウッド映画的な図式の作品は撮ったことがないので、そういった作品をやってみたいという気持ちもあります」

 

──最後に、横浜監督の映画監督としてのこだわりを教えてください。

 

「人の言うことをあまり聞き過ぎないということですね。作品に対する批評を聞かないということではなく、制作を進めているときの、『こうしたほうがいいよ』というような意見に関してです。そういった意見で迷ったときに、自分が本当にやりたいことは何かということを常に忘れないことが監督として大切だと思っています」

 

映画『俳優 亀岡拓次』は1月30日よりロードショーです。

 

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