映画『シーズンズ 2万年の地球旅行』で生物学者が果たした役割


2万年に渡る時の流れの中で生きる動物たちの姿を紹介したドキュメンタリー映画『シーズンズ 2万年の地球旅行』が2016年1月15日より公開される。Creaitive Nowではこの作品に共同脚本/科学監修として参加したフランスの生物学者 ステファン・デュラン氏にお話を伺いました。


 
 

ステファン・デュラン (生物学者/鳥類学者/科学ジャーナリスト)
1997年以降、ジャック・ペラン監督の動物ドキュメンタリー映画『WATARIDORI』(2001年)や『オーシャンズ』(2009年)、に科学監修として参加。2016年1月15日公開の『シーズンズ 2万年の地球旅行』では共同脚本も勤める。これらの映画作品の関連書籍の執筆も担当している。

 

──デュランさんは、もともと学者だったそうですね。

 

「大学で生物学を教えていました。専門は鳥類学です」

 

──大学の先生がどのようにして映画に関わるようになったのでしょうか。

 

「1997年に俳優でもあるジャック・ペラン監督と知り合ったのがきっかけです。彼は1996年に『ミクロコスモス』というをドキュメンタリー映画を大ヒットさせ、次回作に渡り鳥のドキュメンタリー映画を企画していました。ところが、ペラン監督は鳥のことを全く知らなかったので、鳥類学者の私が科学スーパーバイザー的な立場で撮影に参加することになりました。それが『WATARIDORI』です。それ以来、18年間、動物ドキュメンタリー映画に関わっています」

 

──『シーズンズ 2万年の地球旅行』には、どのような関わり方をされているのでしょうか。

 

「最初のシナリオ執筆の段階から映画の完成までの全てに関わりました」

 

──元々、映画製作に興味があったのでしょうか。

 

「まったくありませんでした。アドバイザーとして撮影現場に参加しているうちに、自分でカメラを操作して動物を撮るようになり、脚本まで書くことになったんです」

 

──生物学者にとって、動物ドキュメンタリーの撮影現場にいるということは、どのような意義を持つのでしょうか。

 

「撮影現場にいると、正直、もう大学には戻りたくなくなります。大学では1年間、ひとつの動物に関してだけ研究するというのが普通です。でも、映画では鳥類に限らず様々な動物を1年中観察できるのです。これは究極のフィールドワークですよ」

 

映画『シーズンズ 2万年の地球旅行』
2万年前、およそ7万年前から続いてきた氷河期が終わりを告げ、動物たちにとって繁栄の時代が訪れるだった。
(C)2015 Galatee Films - Pathe Production - France 2 Cinema - Pandora Film - Invest Image 3 - Rhone-Alpes Cinema - Winds - Pierre et Vacances

 

──通常の動物ドキュメンタリーと違い、本作には人間が登場します。また、作劇的に狩猟や農耕、戦争といった人間の営みも描かれます。

 

「これは、自然というものが2万年の時間をかけてどのように進化してきたかを描くために必要なことでした。地球上の動物にとって大きな転換点がふたつあります。ひとつは映画の冒頭で描いた氷河期が終わり氷が溶け出す瞬間で、もうひとつが動物がしかいなかった世界に人間が登場した時期です。人間が動物にどのような影響を与えてきたか、どうしても描写したいという思いがあり、ドラマ部分を入れました。ここでこだわったのは人間の視点を入れないという部分です。あくまでも、動物の視点から人間は描かれています」

 

──動物の2万年の歴史を描くのが本作のテーマですが、滅びてしまった動物は登場させられません。

 

「その通りです。でも、ひとつだけ幸運だったのは、氷河期からいたジャコウウシとトナカイが現在も生き残っているということです。この動物を登場させることで、氷河期をイメージした映像を撮ることが出来ました。実は脚本の第一稿ではマンモスのこと書いたのですが、マンモスは滅びているので映像に出来ません。CGで描くというアイデアもあったのですが、実際の動物の映像だけでいくことになりました。ただ、この映画がドキュメンタリーでなかったとしても、3DCGは使用しなかったと思います」

 

──それはなぜですか。

 

「私たちは驚きを与えてくれる動物の姿を見せたいのです。CGで描かれた動物は、いくらその見た目がリアルだったとしても、プログラマーが描いた動きしかしません。そこに驚きはありません」

 

──本作のために撮影された映像の中で、デュランさん自身も驚いた動物の姿はありますか。

 

「馬の後ろを狼が追いかけるという映像ですね。狼が狩りの対象として馬を追うことは知られていましたが、実際にそれを見た人間はいません。『シーズンズ』では、それを初めて映像で見せることができました。また、そのシーンで馬がネズミの近くを駆け抜けて、ネズミが驚いているという映像をワンカットで撮影できたのですが、その映像は気に入っていますね」

 

──『シーズンズ』のような動物ドキュメンタリーでは、どの程度厳密な脚本が存在するのでしょうか。

 

「人間の登場するドラマ部分以外も、実は厳密なシナリオが書かれています。その動物のどのような姿を撮りたいかとい部分まで指示されているのです。撮影では、脚本を書いた私もカメラマンや監督と現場に同行し、ひたすらその画が撮れるまで待機します。ただ、脚本にないサプライズも沢山あります。熊の生態を撮りに行ったのに、そこにコウノトリが飛んできたので、そのまま野生のコウノトリを撮影したというケースもありました」

 

──ドラマ部分では、人間によって自然が破壊され動物が追い詰められていく姿も描かれています。

 

「この映画では、それと同時に人間と自然の共生も描きました。農耕民族が森を切り倒し動物たちは棲家を失いますが、そこで新しく順応して暮らし始めた動物たちもいたのです」

 

現在のネコの元となったオオヤマネコ。
(C)2015 Galatee Films - Pathe Production - France 2 Cinema - Pandora Film - Invest Image 3 - Rhone-Alpes Cinema - Winds - Pierre et Vacances

 

──戦争中に鳥の絵を描いている兵士の姿なども登場します。

 

「あれはフィクションだと思われたかもしれませんが、実話なのです。その兵士は鳥類学者だったそうで、鳥に関する著書を残しています。その著書は戦争中に書かれたものだそうです」

 

──デュランさんはこれからも動物ドキュメンタリーに関わっていくのでしょうか。

 

「まだ、撮りたい動物や題材は沢山あるので続けていくと思います。ただ、自分の関わった作品をドキュメンタリーとはあまり呼びたくないんです。フランスでドキュメンタリーというと、非常に狭義なものになってしまうんです。『ドキュメンタリー映画を観る』というと、観る側も何か学ばなくてはというような視線になってしまいがちなのですが、私たちの目的は学ばせる以上に、映像で感動させるということなのです。動物たちはそのためのキャラクターなのだと思っています」

 

映画『シーズンズ 2万年の地球旅行』は2016年1月15日より全国ロードショーです。

 

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