映画『知らない、ふたり』 今泉力哉監督インタビュー


恋する男女のすれ違う様子をリアルな描写で描いてきた今泉力哉氏の最新監督作『知らない、ふたり』が2016年1月9日より劇場公開されます。Creative Nowでは、リアルな恋愛映画を撮り続ける今泉監督にお話を伺いました。


 
 

今泉力哉 (映画監督)
1981年生まれ。音楽ドキュメンタリー『たまの映画』(2010年)で商業監督デビュー。『こっぴどい猫』(2012年)でトランシルヴァニア国際映画祭最優秀監督賞受賞。その他の監督作品に『終わってる』(2011年)、『サッドティー』(2013年)、『鬼灯さん家のアネキ』(2014年)などがある。近年はテレビドラマ『セーラーゾンビ』(2014)や、乃木坂46の個人PVなども手掛けている。最新作『知らない、ふたり』が2016年1月9日よりロードショー。

 
──『知らない、ふたり』では、今泉監督作品特有の異性に対する過剰なまでに生々しい感情が、やや綺麗なものに昇華しているような印象がありました。

 

「これまでの僕の監督作品と大きな違いは、この映画が当初は『韓国のアイドルグループNU’ESTで何か映画を撮ってくれ』という企画だったという部分ですね。そこで彼らをイメージしてアイドルっぽい映画の企画を出していたのですが、逆に『いつものテイストでやってください』といわれたんです。ただ、彼らの顔が美しく整っている分、一見すると生々しさはいくらか減ったように感じるかもしれません。それ以外にも、はっきりと意識してこれまでの作品と変えた部分もあります。僕の映画は登場人物が誰も幸せにならないというオチが多かったのですが、今回はあえて幸せな終わり方も意識しました。幸せの予感というか、幸せを感じさせる終わり方をしたいと思ったんです」

 

──今泉監督の作品の特徴として、登場人物のリアルさがあります。今作は異国の美青年たちが主人公ということで、そのリアルさが失われるという不安はありませんでしたか。

 

「これまで僕の作品は、男性も女性も普通の人たちという図式で成立していました。映画の幸せな終わり方同様、イケメンと美女の恋愛なんてドラマチック過ぎると否定していた部分もあったのですが、実際に撮影してみると違和感はなかったですね。自分の周囲でも、イケメンで恋愛が上手くいかない人はたくさんいますし、恋愛のもどかしい悩みは普遍的なものなのだと思います」

 

映画『知らない、ふたり』
日本で靴職人見習いとして暮らす韓国人青年 レオンは、ある事件をきっかけに人との関わりを避け孤独に生きていた。公園で泥酔して寝ていた韓国人女性 ソナとレオンが出会ったことから、レオンやソナの周囲の人々の関係や感情が少しずつ変化していくのだった。
(C)2015 NIKKATSU, So-net Entertainment, Ariola Japan

 

──アイドルグループのメンバーを演出されてみていかがでしたか。

 

「ドラマやPVでアイドルを撮った経験もあり、大きな違和感はありませんでした。アイドルの人たちは変な演技クセがなく振る舞いが自然なので、監督として演出するときに役者さんより逆にやり易い部分もあります」

 

──本作では、相思相愛どころか、相手に存在すら知られていない距離での恋愛が描かれていますね。

 

「凄い相思相愛という関係より、互いの温度差のある関係に興味があります。今作に関しては、それ以外に他人に対する優しさのズレがテーマです。過剰な優しさや、どこかピントのズレた優しさということに関して描きたかったんです」

 

──恋愛が真摯に描かれているにも関わらず、感動より笑いを呼ぶという作風です。

 

「笑いに関してですが、あくまでも当人たちは真剣なのに、俯瞰で観ていると笑えるという構図にはこだわっています。コントのようにあえて笑わせることを話すのではなく、気まずさで笑いを呼ぶということを意識的にやりたいと思っているんです。他にもいろいろこだわりはあるのですが、僕が他の監督と違う事は嘘への許容が狭いという部分です。芝居の温度も含めて、自然でないのは嫌なんです。会話のシーンでも、実際には話さない決め台詞っぽい言葉は使わないようにしています」

 

──俯瞰に関してですが、嘘をついたり、優柔不断だったりするダメな人々に対して、今泉監督は非常に暖かい視点を持っているという印象を受けます。

 

「自分に理解できない人や嫌いな人も認めるべきだという気持ちはあります。映画でも片方の側ではないスタンスを常に持っていたいんです。映画の中でお話を進行させる役割となる分かり易い悪人とかは嫌いですね」

 

──映画的なカタルシスの不在も今泉監督の作品の特徴です。

 

「カタルシスに関しては、ラストにドーンと何かが起きて、持ち帰るものがある映画ではなく、『あの人たち、これからどうやって生きていくんだろう』と観客が観た後も考えてたり、語れるような終わり方がある映画が良いと僕は思っています」

 

──これから今泉監督はどのような映画を作っていきたいのでしょうか。

 

「どのような映画でも恋愛は絡むと思うのですが、別の世代の恋愛や、もう少し温度を下げた恋愛、登場人物の数を絞った作品も撮ってみたいですね。ただ、主人公がひとりだけという作品にはまだ興味がないんです。他の登場人物を脇役にしたくないんですよ。皆が活き活きしてる作品をこれからも作っていきたいですね」

 

『知らない、ふたり』は2016年1月9日より全国順次ロードショーです。

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