クリエイターインタビュー 瀧本智行 (映画監督)


伊坂幸太郎140万部突破のベストセラー小説を映画化した『グラスホッパー』が2015年11月7日より公開されます。Creative Nowでは、個性的な殺し屋や闇社会の住人たちが繰り広げるサスペンス群像劇を監督した瀧本智行氏にお話を伺いました。


 

瀧本智行(映画監督)
1966年生まれ。京都府出身。大学在学中から自主映画制作を開始し、フリーランスの助監督として活動。2005年『樹の海』で監督デビューし第25回藤本新人賞受賞。監督作品に『犯人に告ぐ』(2007年)、『イキガミ』(2008年)、『スープ・オペラ』(2010年)、『就活戦線異常あり』(2010年)、『星守る犬』(2011年)、『はやぶさ 遥かなる帰還』(2012年)『脳男』(2013年)などがある。最新作『グラスホッパー』が2015年11月7日より全国劇場公開。


 
 
──伊坂幸太郎さんの小説は、これまでに何作も映画化されてきました。どのような経緯で瀧本さんが監督することになったのでしょうか。

 

「配給のKADOKAWAさんに、原作の伊坂さんから監督候補として僕の名前が出たと聞いたんです。『グラスホッパー』は伊坂さんの作品の中でも一番のベストセラーですし、中村義洋監督(※)が撮るだろうと思っていたので意外でした。正直プレッシャーもあったのですが、伊坂さんとお話して監督することを決断しました」
 
※中村義洋監督はこれまでに『フィッシュストーリー』や『アヒルと鴨のコインロッカー』、『ポテチ』など、伊坂作品を多数監督している。
 
──伊坂さんとはどのようなお話をされたのでしょうか。
 
「伊坂さんと話をしたときに、僕が監督した『犯人に告ぐ』と『脳男』が好きだという感想をいただいたんです。僕自身も自覚しているのですが、僕は映画を原作に以上に重く描いてしまう部分があります。伊坂さんはご自身の小説と僕の重い作風が、『グラスホッパー』で上手く融合することを期待していたようです」
 
──瀧本監督自身は『グラスホッパー』のどのような部分に魅力を感じ映画化したいと考えたのでしょうか。
 
「伊坂さんならではのユニークなキャラクターや小説のスピード感です。伊坂作品を読んでいるときに感じるテンポやスピード感を映画でも再現し、2時間を2時間と感じないような映画に仕上げたいという気持ちがありました」
 

映画『グラスホッパー』
渋谷のスクランブル交差点で起きた自動車暴走殺人事件で婚約者を失った中学教師 鈴木は、事件の黒幕が支配する組織に復讐のため潜入する。また、組織の依頼を受け任務を行う殺し屋「鯨」や「蝉」も、それぞれの目的のために暗躍していた。出会うはずのない3人の人生が、様々な偶然から交差していくのだった。
(C)2015「グラスホッパー」製作委員会


 

──今作は群像劇ともいえる作品で様々なキャラクターが登場します。
 
「キャストに関しては本当に理想的なものになりました。生田斗真さんは『脳男』と連続で主演してくれましたが、『脳男』の殺人マシンとは真逆の何もできない普通の男の役を演じてくれています。『脳男』の撮影の合間に見せてくれた生田さんの平凡さというか素の魅力を、今作の鈴木役では反映させたかったんです」
 
──鯨と蝉という二人の殺し屋も非常に印象的でした。
 
「浅野忠信さんが演じた鯨は、ターゲットに暗示にかけ自殺させる殺し屋です。この殺し方は小説で読んでいると面白いのですが、映像でリアリティを持たせるのは非常に大変です。俳優自身の持つ説得力でしか、この殺害能力にリアリティは与えられないと思いました。そういった意味で、浅野さんは画面に映っているだけでこちらの想像力を喚起してくれるような存在なので、鯨役には最適でした。また、蝉役の山田涼介さんは、今作最大の発見というか驚きでした。彼はワンカットにかける集中力が凄くて、本当に映画向きの俳優なんです」
 
──映画冒頭の渋谷駅前のスクランブル交差点の凄惨なシーンなど、映像的にも非常に力が入っていますね。
 
「実は渋谷駅前の殺戮シーンはすべてセットなんです。千葉県の長生に潰れたショッピングセンターがあって、そこの駐車場に渋谷駅前のスクランブル交差点をセットで再現しました。交差点の周囲にある某レンタルショップの一階、交番、地下鉄入り口なども作り、それ以外の周囲は渋谷の実景を合成しています」
 
──『脳男』や本作を観ると、瀧本監督にはアクション映画嗜好も強くあるような気がします。
 
「よく誤解されるのですが、アクション嗜好はまったくないですね。アクションは撮影も大変ですし、あまり好きではありません(笑)。ただ、動くものを映すのが映画ですから、アクションこそが映画の華だという意識はあります」
 
──『グラスホッパー』では、理不尽な暴力や無慈悲な死がしっかりと描かれています。瀧本監督の作品では、どのようなジャンルの作品でも常にそういった描写から逃げないという印象があります。
 
「よく陰惨な事件が起きたときにいわれるのですが、映画の中の暴力や死が、それを観た人に何らかの影響を与えうるものである事は確かだと思います。それらが暴力に対する衝動を掻き立てる場合もあるでしょうし、その代替効果もあると思うのです。そのふたつの側面がありえるという事は常に自覚していたいと思っています。暴力や死を作品で描くとき、『本当に痛いものは本当に痛く見せる』というのは映画監督の責任ではないかと、個人的には思っています」
 
──瀧本監督はデビュー作の『樹の海』以降は原作ものを監督されています。オリジナル作品への関心はあるのでしょうか。
 
「あります。いつか撮りたいと用意している企画も多いのですが、撮る事自体が好きなので、オリジナルか原作ものかにはこだわりません」
 
──これから、どのような作品を撮っていきたいのでしょうか。
 
「それを決めないように監督していきたいんです。僕の場合、『グラスホッパー』をはじめ”何でこれを俺に頼むんだろう?”というような企画が全部なんですよ(笑)。でも、それを監督することで、自分の中にあるものが発見できるんです。ただ、似た傾向の作品が続かないようには心掛けています。最近はサスペンスのイメージがあるかもしれませんが、『脳男』と『グラスホッパー』の間には、WOWOWの連続ドラマ『私という運命について』を監督しています。これはラブストーリーで、そういった振り幅は監督として意識しています」
 
映画『グラスホッパー』は2015年11月7日より全国ロードショー。 

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