クリエイターインタビュー 石井隆 (映画監督)


劇画家としてデビュー後、映画監督としてハードボイルド・アクション作品を発表し高い評価を得ている石井隆氏。その石井監督作品の中でも極めて過激なバイオレンス描写で高い評価を得ている『GONIN』シリーズ19年ぶりの続編『GONIN サーガ』が2015年9月26日より公開されます。Creative Nowでは、時代を超えこのシリーズを再起動させた石井監督にお話を伺いました。


 

石井隆 (映画監督)
1946年 宮城県出身。映画を志すも早稲田大学商学部在学中に、劇画家としてデビュー。1977年に『天使のはらわた』が大ヒットし、1978年に日活ロマンポルノでシリーズ映画化。自身も1988年『天使のはらわた 赤い眩暈』で監督デビュー。1992年の監督作品『死んでもいい』で、第33回ギリシャテッサロニキ国際映画祭最優秀監督賞、トリノ国際映画祭審査員特別賞、キネマ旬報最優秀脚本賞他、『ヌードの夜』(93)で、サンダンス・フィルム・フェスティバル・イン・トーキョー'94グランプリなど、国内外で多くの映画賞を受賞。そのほかの監督作品に『月下の蘭』(91)、『夜がまた来る』(94)、『天使のはらわた 赤い閃光』(94)、『GONIN』(95)、『GONIN2』(96)、『黒の天使 Vol.1』(98)、『黒の天使 Vol.2』(99)、『フリーズ・ミー』(00年)、『花と蛇』(04)、『花と蛇2 パリ/静子』(05)、『人が人を愛することのどうしようもなさ』(07)、『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』(10)、『フィギュアなあなた』(13)、『甘い鞭』(13)など多数。最新作『GONINサーガ』が2015年9月26日より全国公開される。

 

──『GONINサーガ』は石井監督にとって久々の本格的なハードボイルド・アクション 作品です。『GONIN』シリーズは非常に評価の高い作品ですが、今回の続編までなぜ19年も経過したのでしょうか。
 
「『GONIN』、『GONIN2』が好評で、実はそれ以降も毎年『GONIN少女』版等、その時々の旬なスターでシリーズを継続していく予定だったんです。ところが、諸事情で作品自体が映画業界内で封印作品のような扱いになってしまったんです」
 
──『GONIN』以降の石井監督はアクション以外の作品でも高い評価を得てきました。
 
「今お話しした事情でなぜか僕自身封印状態になり、生き惑っていたときに女優さんの逆指名で『花と蛇』のオファーを戴いて、女優さん自身も、同じく仕事封印状態だったようで、捨て身で演じてくれて大ヒットしたんですが、結果、自分のイメージや求められる作品がR-18のエロス作品ばかりになってしまいました。差別意識は全くありませんが、バイオレンス作品を撮りたいという気持ちは常にありました。そんな中、KADOKAWAさんでもエロティックな映画が三本続いた後、”次は『GONIN』を撮ろう!”と言われて封印状態を解いてくれた。嬉しかったですね」
 
──19年振りの続編では、何を一番描きたかったのでしょうか。
 
「『GONIN』の外側に流れ続けていたであろう”時間”です。『GONIN香港』とか『GONIN少女』とか、色々シナリオは書きましたが、その中で、『GONIN』でビートたけしさんが演じた京谷というヒットマンに出会い頭に射殺されてしまうパトカーの警察官にも妻子がいるんだろうな、その後どんな人生を送るんだろうって、撮影当初から気になっていて、”氷頭は生きていた”という設定で、遺された遺族たちの”その後”を描きたくなりました。根津甚八さんには元気なままでお芝居として植物人間から復活した氷頭を演じていただきたいと思ったのですが、ご自身が現実、体調を崩されて、引退宣言までされて、断られたら成立不可能な内容でした」
 

映画『GONINサーガ』
1995年、広域指定暴力団五誠会系大越組事務所の現金が5人組の強盗団に強奪された。この事件を発端に、妻子等事件関係者に多数の死者が出た。それから19年の歳月が流れ、事件で親を失った子供たちは、それぞれの日々を生きていた。行き場のない彼らの人生が、ある事件をきっかけに再び交差していく……。
(C)2015『GONIN サーガ』製作委員会

 
──今回は、敵も味方も前作の子供たち世代となっていますが、この19年で映画におけるヤクザやバイオレンスの立ち位置も大きく変化しています。この状況をどの程度実感されたのでしょうか。
 
「前作も時代に弾き出された者たちの喘ぎと死に様を撮りたかった。今回も同じです。ヤクザ組織やバイオレスはあくまでひとつの装置。どこかで死場処を探している彼ら彼女らの喘ぎ、そして死に様を描ければと」
 
──本作の若者たちは親の犯した罪によって、非常につらい人生を歩んでいます。
 
「東出昌大君演じる久松と桐谷健太君演じる大越は確かにつらい状況ですが、残された家族を守る、組を再興するという目標のために生きるという希望がまだある。それに対して柄本佑君の演じる森澤は、復讐のためだけに生きている幽鬼のような存在です。土屋アンナさん演じる麻美は、全てを破滅に誘い込む存在、安藤政信君が演じる式根はヒールとして絶対的なパワーを持つ存在です。5人とも親の因果を背負っていますが、それらの”断てない血”の物語をハードに見せられればと」
 
──柄本佑さん以外は、初めて石井作品に参加した役者ばかりです。常連の役者さんが多いのも石井作品の特徴ですが、新たに石井組に参加した彼らの印象をお聞かせください。
 
「前作『GONIN』のお陰だと思います。あのスタッフ、キャストがあったからこそ、ある種の覚悟を持って出演してくれた。皆、撮影では、それぞれの”限界”を見せてくれた。シナリオの段階では僕のオファーが若い役者に届くかどうか分からない気持ちもありました。今回、参加してくださった役者さんたちには、縁というものを感じました」
 
──根津さん以外にも、鶴見辰吾さんなどかつての『GONIN』のキャストが新たな回想シーンや前作の映像などで参加しています。
 
「『GONIN』は竹中直人さんが言い出しっぺ。”石井さんの描く女もいいけど、男も色っぽいから好きだな、男だけの映画やりましょうよ”って。事務所の社長さんがお金を集めてくれて、竹中さんは役者の推薦や出演交渉的な部分までしてくれた。僕は根津さんと椎名桔平君と永島敏行さん、そして根津さんの紹介で若頭の久松を演じた鶴見辰吾さん。そのような縁もあり、今回もオファーしましたが、鶴見くんの子供の話だよって伝えたら、驚いていましたが、”分かりました”と」
 
──竹中直人さんは前作とは別の役として出演されています。
 
「前作の殺し屋はビートたけしさんですからね、凄い評判でしたし、オファーされた方も腰が引けるでしょうし、背負ってくれるのは竹中さんしかいなかった。その竹中さんから福島リラさんを紹介していただき、関係不明の男女二人組の殺し屋が誕生したんです」
 
──19年振りの続編ということで『GONIN』を知らない観客もいると思います。
 
「今回の企画が成立し辛かったのはまさにそこでした。シリーズ1作目を見ていない人にはわかりにくいかもしれないと。前作が封印状態でしたし、回想シーンに使わせて貰えるかどうか不安でしたが、5分間以内という縛りはあったもののOKが出て、最終的には、バイオレンス映画としてのパワーで持っていき、前作を観ていない人でも新たな『GONIN』、『GONINサーガ』として楽しめる作品を目指しました」
 
──これから『GONIN』シリーズはどう展開していくのでしょうか。
 
「シナリオは何本か持っていますので撮りたくはありますが、こればかりはプロデューサーとの出会いですし……」
 
──これまでの様々な石井作品に登場した、名美と村木に関してはいかがでしょうか。以前、「最近の作品では名美と村木はいなくなった」とも発言されていました。
 
「名美が恋しいんでしょうね、土屋アンナさんが演じた麻美は名美の名前を一文字変えただけですが、名美との出逢いは感じました。全てを破滅に誘うファムファタール。名前が違っていても、僕の映画は、名美を探し続ける彷徨だとは思っています」
 
映画『GONINサーガ』はKADOKAWA/ポニーキャニオン配給で2015年9月26日よりTOHOシネマズ新宿他全国ロードショーです。

 
インタビュー撮影:岩松喜平

カテゴリ: 編集部から
タグ: , , , , , ,