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牧野武文の「社会派で行こう!」

LCCから「サービス」の在り方を考える

従来の航空業界のサービスの考え方を覆し、新たなビジネスモデルを確率したLCC(ローコストキャリア)。様々な業界で「サービス」の在り方が見直されつつある今、改めてLCCをクローズアップする。

LCC(ローコストキャリア)という言葉を誰が発明したのか、いろいろ調べてみたがよくわからなかった。少なくとも、LCCと呼ばれる航空会社が自ら「私たちはLCC」とは名乗り始めたのではなく、マスコミによる命名のようだ。

LCC、格安航空会社と言われると、「座席は狭い。機内サービスはなし。安全性も心配」と思いがちだが、座席の広さや機内サービスについては、LCCを含めた航空会社によってさまざま。安全性も航空会社次第であって、「LCCだから安全性が低い」ということはない(安全性については、格付けランキングがインターネットでいくらでも見つかる)。

従来の航空会社と格安航空会社は何が違うのか?

従来の航空会社は、FSC(フルサービスキャリア)あるいはレガシーキャリアと呼ばれるが、いちばんの違いはビジネスモデルだ。FSCは、本拠地である空港から、国際線、国内線のネットワークを築き、乗客が自社便でどこへでも行けるようにする。一方で、LCCは2地点間の往復便を基本にし、到着地での清掃、点検時間を圧縮し、往復回数を増やす。これで、コストを下げるとともに、乗客の利便性を上げている。

もうひとつの違いが、サービスに対する考え方だ。FSCは、確立した総合サービスを乗客に提供する。LCCは、乗客が必要とするサービスのみ提供する。例えば、FSCは国際線であれば、それが短時間のフライトであっても必ず機内食を提供するが、LCCは事前に予約をした乗客のみに有料で提供する。

サービスを「カスタマイズする」という考え方

昔は、誰にとっても「快適な空の旅」の内容がほぼ同じものであったので、FSCは全員に一律のサービスを提供していた。しかし、今では「なにを快適だと思うか」は、人によって、旅の目的によって違ってきている。2時間のフライトで機内食は不要だと考える人もいれば、液晶モニターによる映画上映は、自分のiPadで見るからいいという人もたくさんいるだろう。LCCは、サービスをフルカスタマイズできる選択肢を持たせ、それに見合ったコストを支払っていただくという考え方なのだ。

LCCの中には、機内で空港から市内までのリムジンチケットを販売したり、到着地で使えるモバイルルーターがレンタルできるなどのツボを押さえたサービスを提供しているところも増えてきている。LCCは「安い飛行機」ではない。「便利な飛行機」なのだ。その意味で、LCCや格安という言葉は本質を外している。FCC(フェアコストキャリアまたはフルカスタマイズキャリア)と呼ぶべきではないかと思う。

参考文献

平凡社新書『激安エアラインの時代 なぜ安いのか、本当に安全なのか』
杉浦一機 著/平凡社 刊
出版年月 2012年3月

激安航空会社の安さの秘密や安全性、メリット・デメリット等について解説。航空自由化の流れや未来予測などが鳥瞰されており、2012年当時LCCがどのような背景の中登場したのかがよくわかる。

 


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著者プロフィール

牧野武文(ライター)
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。また、現代語(なう語)で論語の内容をつぶやくTwitterアカウント「孔子なう」(@KongziNow)を運営。著書に『横井軍平ゲーム館: 「世界の任天堂」を築いた発想力』(ちくま文庫)、『任天堂ノスタルジー 横井軍平とその時代』(角川新書)、『Googleの哲学』(だいわ文庫)、『進撃のビッグデータ』(マイナビ新書)、『インターネット社会の幻想』(アルク新書)、『グラフはこう読む!悪魔の技法』(三修社)、『論語なう: 140文字でわかる孔子の教え』(マイナビ新書)など多数。また、テクノロジー分野の歴史と偉人達を追った電子書籍『レトロハッカーズ』シリーズをKindストアにてセルフ出版している。