2017.08.09
「テレワーク」導入で労働環境は改善されるのか?
「働き方改革」の取り組みとして注目されている「テレワーク」。しかし、ただそのスタイルを導入するだけでは、かえって労働環境が過酷になることも。
2017.08.09
「働き方改革」の取り組みとして注目されている「テレワーク」。しかし、ただそのスタイルを導入するだけでは、かえって労働環境が過酷になることも。
「テレワーク」とは、情報通信機器等を活用し、場所や時間の制限を受けずに柔軟に働く業務方式だ。多くの方が、テレワークなどの新しい働き方に対して、「自分の裁量で仕事の時間配分ができる」というポジティブな面と、「単なる隠れ残業になり、より労働環境は過酷になるのではないか」というネガティブな不安の両方を感じていることだろう。『テレワーク 未来型労働の現実』(佐藤彰男 著/岩波出版 刊)は、この両方に対して、米国の例などを引きながら論じている。
本書は2008年5月発行のため、さすがに統計情報は古くなってしまっているが、それでも著者が挙げている論点がまったく古びていないことに驚かされる。つまりは、10年前から「働き方改革」はあまり進歩していないということなのだろう。
本書で特に重要と感じたのは、日本の企業では成果主義が導入されているとは言え、まだ不十分で、仕事の成果に対してよりも、その人の仕事の情熱や態度に対して評価が行われているという指摘だ。テレワークでは、評価をする上司から社員の情熱や態度が見えなくなってしまうので、テレワークが限定的にしか広まらないのだという。
テレワークは、業務が分割定義され、成果のみで評価されるから可能な働き方だ。今の日本企業は無理やり接木をするように、日本的な評価システムと欧米的なテレワークを接着しようとしている。そのため、目に見えてわかる成果をあげないと、情熱や態度の評価に結びつかないため長時間のテレワークをすることになり、過酷な隠れ残業になっていってしまう。
先進国である米国でも、テレワークについては賛否両論があるようだ。グーグルから米ヤフー立て直しの特命を帯びてCEOに就任したマリッサ・メイヤー氏は、最初にテレワークを禁止して、社員をオフィスに呼び戻した。いわばグーグル型の働き方に変えることで、社内の活力を取り戻そうとした。
さまざまな意見があり、どちらが正解かはわからないが、本書に気になる記述があった。それは、"強制的にノルマ設定されるよりも、自分の裁量で自主的にノルマ設定をした場合の方が、労働環境は過酷になる"というのだ。特に日本では、やらざるを得ない空気感みたいなものを醸し出されるという「自己裁量という名前の強制」みたいなものが存在する。
「テレワーク」をただ導入するだけでは、働き方は改革できない。スタイルの導入ではなく、根本にある評価システムを新しい働き方に見合ったものにすることが重要だということを本書は教えてくれる。
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