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望遠鏡導入計画

(3)どのタイプの望遠鏡を選ぶか:基礎編

「金環日食観測ガイド ~安全に観測できる日食メガネ付き~」発売まであと少しです。

 

望遠鏡を構成している要素は大まかに分けて、鏡筒(星を見る装置)、架台(鏡筒を載せる装置)、三脚(鏡筒と架台を載せる装置)の3つになります。用途や目的に応じてさまざまな方式があり、性能も価格もピンからキリまであるので、初めて望遠鏡を購入する人は何を選んだらいいのかさっぱりわからないと思います。

 

写真は高橋製作所のFSQ-106EST2M。鏡筒は口径106mm、焦点距離530mmの屈折式、架台は自動導入が可能な赤道儀式、三脚は木製直脚。

 

どんな望遠鏡がいいのか?

 

品質や精度、方式といった問題をとりあえず別にすると、対物レンズや対物鏡の口径が大きければ大きいほど明るくて鮮明な画像になり、架台と三脚は大きくて重いほど振動や周囲の影響を受けにくくなるので安定した観測が可能になります。つまり、望遠鏡はでかければでかいほどそれだけ高性能ということになるのですが、天文台に設置されているような巨大なものを個人で所有するのはお金的にも場所的にもまず不可能です(たまに個人でも観測所を作って所有されている方もいますが…)。

 

個人向けの望遠鏡としては、65mmから200mmぐらいの口径の鏡筒に5kgから20kgぐらいの加重でも耐えられる頑丈な造りの架台と組み合わせた製品が使いやすいのですが、高性能なものは数十万円から数百万円もの価格になります。逆にオモチャ屋やホームセンターなどでよく見かける口径が小さくてカメラ三脚のような貧弱な架台とセットにした粗悪な製品は数千円で購入できますが、このような望遠鏡は前回も言いましたが天体観測ではまったく役に立ちません。しかも粗悪な製品に限って数百倍にも及ぶ異常な高倍率を売りにするなど、やたらにスペックを誇張する傾向にありますので注意しましょう。また、内容に見合わないような高い値付けをしたり、あるいはわざと高額な定価設定をして大幅な値引きをするケースも見受けられます。

 

これらのことを念頭に置きながら、望遠鏡選びを楽しんでいただければと思います。では、まずはちょっと難しい話になりますが、望遠鏡の性能を示す数値について解説します。

 

鏡筒の性能を決める数値とは?

 

鏡筒は、人間の目よりも遥かに面積が大きいレンズや鏡を利用して光を集め、その像を拡大して見るための装置です。「対物レンズまたは対物鏡(まとめてここでは対物と呼びます)の口径」「対物焦点距離」「接眼レンズ」などの要素によって性能が決まってきます。端的に言えば、望遠鏡に限らず双眼鏡やカメラのレンズも同じですが、対物口径が大きければ大きいほど明るく鮮明な画像になります。そして、焦点距離は長ければ長いほど拡大率がアップしますが、逆に像が暗くなってしまいます。また、焦点距離の短い接眼レンズを使って倍率をアップすることができますが、基本スペック以上に拡大するとやはり像が暗くなったりボヤけてしまいます。以下、少し面倒なのですが、望遠鏡の性能や購入する時の目安を知ることができる重要な計算式です。これを覚えておくと鏡筒を選ぶ際に便利です。

 

屈折式望遠鏡の断面図。反射式は構造が異なるが、対物口径や対物焦点距離について計算方法は同じだ。

 

◯集光力:人間の目の何倍の光を集める事ができるのか

【集光力=(対物口径÷瞳孔の口径)の2乗】

(例 204倍=(100mm÷7mm)の2乗)

望遠鏡が集めることができる光の量です。対物口径が大きければ大きいほど光を集めることができます。例は、人間の大人の瞳孔の口径を7mmとして計算していますので、人間の目の204倍の光を集めることができるということになります。

 

◯限界等級:どれぐらい暗い星を見る事ができるのか

【限界等級=肉眼での限界等級+5log(対物口径÷瞳孔の口径)】

(例 約16等級=6等級+5log(100mm÷7mm))

望遠鏡を使用してどこまで暗い星が見えるかを計算できます。周囲の明るさや個人差がありますが、ベストな環境なら肉眼での限界等級(星は明るさによって等級が付けられています)は通常6等級から6.5等級と言われています。ここでは6等級で計算しました。

 

◯倍率:自分が持っている望遠鏡の拡大倍率を計算する

【倍率=対物焦点距離÷接眼レンズの焦点距離】

(例 100倍=1000mm÷10mm)

拡大して見るときの倍率を計算できます。接眼レンズの焦点距離が短いほど倍率はアップしますが、天体観測の場合は倍率を極端に高くしても逆に像がボヤけてしまい、コントラストも低下するため、よく見えなくなることがあります。高い倍率イコール高性能ではありません。また、星雲や星団などは、倍率が高過ぎると視野に入りきれず一部分しか見えませんので、低倍率で見ることも重要です。バローレンズと呼ばれる対物焦点距離を長くする接眼レンズに似たレンズがありますが、当然ですが像が暗くなったりボケてしまう可能性があるので注意しましょう。

 

◯有効最高倍:自分が持っている望遠鏡に適した最大の拡大倍率

【有効最高倍率=対物口径×2】

(例 200倍=100mm×2)

各望遠鏡の適した最高倍率になります。対物口径を2倍した値がこれになります。この倍率を超すと像がハッキリ見えなくなったり、あるいは暗くなってしまいます。この倍率を超さないような焦点距離の接眼レンズを使用したほうが無難です。例えば対物口径が100mmの場合には200倍が限界ですので、対物焦点距離が1000mmなら5mm、500mmなら2.5mmの焦点距離の接眼レンズが限界値になります。

 

◯有効最低倍率:自分が持っている望遠鏡に適した最小の拡大倍率

【有効最低倍率=対物口径×0.15】

(例 15倍=100mm×0.15)

倍率が低ければ低いほど明るく見え視野も広くなりますが、接眼レンズの焦点距離の限界もあります。例にある口径100mmで15倍を実現する接眼レンズは、もし焦点距離が1000mmあったとすれば、70mmという長いものになってしまいますが、これだけ長い接眼レンズは通常用意されていません。また、後に説明する反射式望遠鏡は、構造上鏡筒の中央に副鏡と呼ばれる装置が付けられているため、極端に低倍率にするとこれらの装置が影になって見えてしまうことがあります。

 

◯分解能:隣り合っている星を見分けることができる性能

【分解能=115.8÷対物口径】

(例 1.158秒=115.8÷100mm)

接近して並んでいる星を見分ける能力を角度(秒)で表します。つまり、どれぐらい細かく見る事ができるかという性能です。

 

◯明るさ:望遠鏡の明るさ

【明るさ(F値)=対物焦点距離÷対物口径】

(例 F10=1000mm÷100mm)

天体望遠鏡やカメラレンズの明るさはF値で表示されます。この値が低いほど明るい望遠鏡ということになりますが、目で見る場合よりもカメラで撮影する際にこの数値が重要になってきます。F値が2倍になると明るさは4倍になります。ちなみに人間の目の値はF1.0ぐらいと言われています。

 

この他にさまざまな数値がありますが、とりあえずここまでにしておきましょう。では、次回は鏡筒の種類と仕組を解説します。

 


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〈連載目次〉

「望遠鏡導入計画 - 1 金環日食に向けて機材を検討する」
「望遠鏡導入計画 - 2 メーカーはやはりタカハシか?」
「望遠鏡導入計画 - 3 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:基礎編」
「望遠鏡導入計画 - 4 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:鏡筒編」
「望遠鏡導入計画 - 5 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:架台の種類編」
「望遠鏡導入計画 - 6 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:経緯台編」
「望遠鏡導入計画 - 7 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:赤道儀・三脚編」
「望遠鏡導入計画 - 8 購入条件に合う天体望遠鏡を探す」
「望遠鏡導入計画 - 9 天体望遠鏡はこれに決定!」
「望遠鏡導入計画 - 10スカイポッドVMC110Lを組み立てる」
「望遠鏡導入計画 - 11スカイポッドVMC110Lの設定と調整」
「望遠鏡導入計画 - 12スカイポッドVMC110Lのアライメント準備」
「望遠鏡導入計画 - 13スカイポッドVMC110Lのアライメントを行なう」
「望遠鏡導入計画 - 14危険が伴う太陽撮影!NDフィルタも注意が必要」
「望遠鏡導入計画 - 15日食撮影用のフィルタを用意する」
「まさに神秘の天文現象 ? 2012年5月21日の金環日食」
「金環日食のクライマックスを13秒のビデオで」

 

『望遠鏡導入計画』の記事一覧はこちら

著者プロフィール

マイナビ出版 天体観測&撮影編集部(出版社)
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