ファッションの美学をiPhoneケースに込める「STI:L(スティール)」の果敢なブランド戦略|MacFan

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ファッションの美学をiPhoneケースに込める「STI:L(スティール)」の果敢なブランド戦略

文●栗原亮

なぜ、アップルのミカタをするのか? アップル製品を手厚くサポートするハード&ソフトウェアメーカーの担当さんに、その理由を聞いてみた!

 

「iPhoneケースの世界に“私の手の中にあるファッション”というコンセプトを打ち出したいと語るのは、ロンドンとソウルを拠点に2015年10月上旬にデビューした新ブランド「スティール(STI:L)」のチーフデザイナー・Anni Kimさんだ。

新興ブランドといっても、同氏が所属するNewvit社は1988年に創業したモバイルアクセサリ製造メーカーで、30年の歴史を持つ。当初は大手メーカーのOEMなどBtoBを中心に事業展開してきたが、ありふれたデザインが並ぶiPhoneアクセサリの世界に新風を吹き込むべくBtoC事業に乗り出した。日本国内ではスマートフォンアクセサリの輸入代理店であるロア・インターナショナルが日本総代理店を担当する。

「これまでのiPhoneケースはデバイスを保護するだけというものが多く、ファッション性には乏しいものでした。しかし、iPhoneは毎日持ち歩くファッションアイテムです。ケースはノウハウさえあればどんな企業でも製造できますが、それでは今後生き残ることは難しいでしょう。デザインにこそこだわるべきなのです」

 

PRODUCER PROFILE

STI:L マネージングディレクター
Anni Kimさん

 

STI:L デザインチームマネージャー
Noah Kimさん

 

ロア・インターナショナル 営業部主任
前田一美さん

 

 

新ブランドの計画が起ち上がったのは2015年の1月で、実際の商品展開は2016年初頭と設定した。通常のアクセサリ製品であればそこまで時間をかける必要はないが、従来製品と差別化するためにアパレルのデザイナー出身であるAnni Kimさんとスマートフォンデバイスデザイナーが共同となってブランドコンセプトやストーリー設定、アイデンティティの策定などを綿密にセッティングした。

「グローバルブランド50社を対象にiPhoneケースの市場分析を行いましたが、そこで行われているデザインのトレンドからはインスピレーションを受けませんでした。私たちが念頭に置いているのはヨーロッパの最先端の雰囲気です。多くのファッションブランドが2年後、3年後のトレンドを見越してデザインするように、私たちも今はまだ存在しない“2017年”のケースを作り上げました」

スティールの多彩な製品ラインアップは、市場によくあるプラスチックや金属素材、シリコンのケースとは一線を画す。ハイファッションの衣服やバッグなどに用いられている素材が取り入れられている。もちろん見た目が奇抜というだけではなく、iPhoneのカメラホールの大きさやサイドボタンの操作性を妨げない設計となっており、これらの機能や素材の選定にはデバイスデザイナーの意見が反映されている。

現在のところiPhone 6/6s用のハードケースが10種類、ソフトケースが11種類、カラーバリエーションも含めると非常に多彩なラインアップを揃える。各製品にはそれぞれのデザインイメージを冠した名称が与えられ、「パビス(PAVIS)」「ホプロン(HOPLON)」「タルガー(TARGA)」という、コンセプトやターゲットに合わせた3つのシリーズに分類されている。

デザインに強いこだわりを持つスティールのiPhoneケースは、その製造手法もハイクオリティなものだ。iPhone本来のスリムな形状を損なうことなく、色彩や形状を最大限活かすために、ポリカーボネイトやTPU(熱可塑性ポリウレタン)、アルミ、牛革やイタリアンレザーなどさまざまな素材を組み合わせ、高い精度で丈夫さと薄さを兼ね備えている。

「たとえば、SOUND BarというモデルではiPhoneの下側のスピーカから出る音をすべての方向から聞こえるような形状にデザインしました。素材には通常はあまり用いることのない“布”を採用しており、そのままでは汚れの問題が起きてしまうので撥水加工をするなどの工夫を取り入れています」

ファッションの流儀を取り入れた先進的なデザインと細かなディティールまで重視した機能性、豊富なラインアップを兼ね備えたスティールのiPhoneケース。「今後もほかの製品とは違うファッションをリードしていく雰囲気を作っていきたい」という同社のブランド哲学に共鳴する人は多いはずだ。

 

 

イベントでは、ハイファッションのコレクションで起用されるランウェイのステージに見立てたディスプレイを中央に配置。センターの大型スクリーンではファッションブランドのような動画を流す。

 

「STI:L」のコダワリ

デザイン

すべての製品にデザインスケッチやイメージボードが作られる。写真は騎士の鎧をモチーフとしたハードケース「URBAN KNIGHT」のデザイン画。外側と内側のメッシュを異なる素材で組み合わせるイメージが、この段階で明確に示されている。

素材

ソフトケースに用いるレザーなどの素材はデザインの自由度が高く、組み合わせはほぼ無限大。10種類のデザインに対して、それぞれモックアップは18~20個近く作成した。そこからカラーリングや素材を厳選してデザインイメージに近く、生産管理の面で問題のないものに決定した。「デザイナーは新しいものを追求しますが、それだけではいけないのです」(Anni Kimさん)。

製造

異なるマテリアルを絶妙に組み合わせるのがSTI:Lデザインの真骨頂。上述のURBAN KNIGHTでは強度を確保するアルミ素材と保護性能とカラフルさを兼ね備えたTPUが組み合わせられている。スポーティなデザインの「FREE RUN Bar」では、ポリカーボネートとTPU、ポリエチレンの三重構造でダイナミックな色彩を表現している。

 

 

PRODUCT FOCUS

PAVIS(パビス)

各製品は3つのシリーズに大別される。iPhoneを保護するという意味から「盾」をイメージする単語が選ばれた。PAVIS(パビス)シリーズでは、スピーカをイメージさせる「SOUND Bar」ロンドンの霧をイメージした「LONDON Fog」、イタリアPUレザーに刺繍を施した「Bohemian Chic Diary」などがある。

 

HOPLON(ホプロン)

着脱可能なレザータッセル付きの「PEACOCK WALTZ Bar」、牛革素材を大胆なカッティングで組み合わせた「EVASION Diary」、グラデーションが特徴の「FREE RUN Bar」などはHOPLON(ホプロン)というシリーズに位置づけられる。

 

TARGA(タルガー)

シリーズの中でもプレミアムラインとなるのがTARGA(タルガー)シリーズ。台風のような螺旋をホールで表現した「CYCLONE Bar」、アタッシュケースを髣髴とさせる「JET SET Bar」、アルミ×TPUの異素材コンビの「URBAN KNIGHT」などがラインアップされる。

 

【意味】
「STI:L」のブランド名には「盗む、引っ張る、維持する」という3つの意味が込められており、「あなたの心を持続的に盗む」という願いを意味しているとのことだ。

 

【製法】
アルミフレームには、高熱で鋳造するダイキャスティング製法を用いている。iPhoneの曲線に合わせた立体的で複雑な形状であったため、金型から抜く際のテーパー角度が干渉しないように設計には苦心したとのことだ。