アフリカの教育シーンで出会ったApple製品|MacFan

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アフリカの教育シーンで出会ったApple製品

文●山脇智志

世界の動きは我々が考えるよりもはるかに早い。先日セネガルを訪れた際にアップル製品を核とした現在進行形の教育シーンを目の辺りにした。iPhoneやiPad、Macといったアップル製品がアフリカのIT教育を変えようとしている。

初めてのアフリカ



2013年8月下旬から9月上旬にかけて、西アフリカのセネガルを訪れた。目的は同国首都に本校を置く大学「Institut Suprieur de Management(以下、ISM)」とのモバイルラーニングの実証実験のための契約締結である。ISMはダカールを含めるとセネガル国内に8カ所のキャンパスを有する同国最大の私立学校である。

10月から開始する実証実験では、筆者の属するキャスタリアが開発したモバイルラーニングプラットフォーム「グーカスプロ(goocus pro)」をISMのビジネス大学院MBAコース(以下、MBAコース)の中に取り入れることによって、どのように学習の効果や効率性のアップ、また効用があるかを調査する。

同校のMBAコースでは働きながら通学する生徒が多い。そのため学習だけに割く時間が少なくなり、予習や復習などを十分に取ることができないため、講義で進められる内容に追いつくことが難しい。そこで講義の中で使用するスライドや関係書類などをスマートフォンで見られるように編集し、それらをグーカスプロに搭載して、これまででは学習が起きなかった日常の中の隙間時間などでも学べるようにした。同時にISM側ではその学習状況や進捗度合いなどを随時確認しながら、忙しい学生にとって最適な教育方法を見つけ出そうという試みだ。

今回のISM訪問で驚いたことが2つあった。その1つは学内を案内してもらった際に付属の高校(20名ほどの男女混合のクラス)を見学したときのこと。ゆっくりと、そしてわかりやすい英語で自己紹介したのだが(セネガルはフランス語がメインであり、英語はあまり通用しない)、「セネガルの高校生はどれくらい携帯電話を持っているのだろう」と思い立ち、学生に質問してみた。ほぼ全員が手を挙げたのにも驚かされたが、中にはスマートフォン保持者が3人いた。

アフリカでは携帯電話契約は、基本SIMロックフリーで回線と端末は切り離されており、回線も事前に料金を支払うプリペイド式が一般的。スマートフォンの普及率が上がっているとはいえ、それは大人(しかも富裕層の)だと思っていたが、高校生にも着実に浸透し、ほとんどの生徒がフェイスブックを当たり前に利用しているという。

また、教授やスタッフの使っている各種端末にも目を見張った。特に今回のプロジェクトを担当するDABOIKO氏は、電話はiPhone、タブレットはiPad、そしてMacBookプロをメインマシンに使う。大学のプログラミングの教授もiPhoneを持っていたし、教務プログラムの担当は最新の「サーフェス(Surface)」を使っていた。DABOIKO氏によれば大学の教員はiPhoneやMacユーザが比較的多いらしい。

現地を訪れるまでは実感に乏しかったが、今回のプロジェクトでMBAコースの学生であればスマートフォンでの利用を想定しているのは至極当たり前なことだったのだ。アンドロイド端末のほうが多いが、iPhoneを持っている人も確実にいる。アフリカは我々がステレオタイプに考えているような姿ではないことを思い知らされた。
 







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ダカール市内の外れにある高級ショッピングモール内にアップル製品を売るストアがある。インテリアはアップルストア直営店のような雰囲気。端末だけでなくアクセサリ類が充実していた。



 

iPad3、1台13万円也



ダカール市内の外れ、海岸線に沿って各国大使館や高級ホテル立ち並ぶ地域にも足を運んだ。その中にあるフランス資本の高級ショッピングモールにアップル製品を販売するストアがある。iPhoneやiPadはもちろん、Macも揃っており、店内には歴代のiMacが飾られていた。平日の昼間だったこともあり、店内は私たち以外には誰もおらず、店員も手持ちぶさたそうだった。商品には値札が付いてなかったので試しに近くにあったiPad3(Wi -Fi/16GBモデル)を持っていって聞いてみると、日本円にして13万円ほど。日本の価格の約2.5倍ほどだろうか。

しかし、ISMの教授などがここでアップル製品を買っているわけではない。大学の教授ともなると海外に出かける機会も多く、その渡航先で購入することが多いという。よってこのショップでは、アップル純正のアダプタやコネクタなどのアクセサリ、そしてiPhoneとiPadケースが売れ筋だ。今回の旅に同行したコンサルティング会社のアフリカンビジネスパートナーズの佐藤重臣代表はこう語る。

「2010年の1年間を西アフリカのセネガルで過ごしたのですが、この頃にはセネガルのアッパーミドルクラスのビジネスパーソンが徐々にiPhoneを使うようになり、そこから時間を重ねるごとに、その下のミドルクラスにアップル製品が浸透していきました。 なお、同じアフリカといえどもセネガルと南アフリカでは所得水準に大きな違いがあり、セネガルの2010年の1人当たりGDPは1036ドル、南アフリカは7244ドルと7倍近い差があります。2011年以降は、年を追うごとにiPhoneとともにiPadの利用者が増えています。今では、若手幹部とのミーティングではiPadが打ち合わせ中に出てくることも決して珍しくありません。これはセネガルも南アフリカも同じような状態です」
 







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ISMのMBAコースの教授陣。DABOIKO氏が持つ端末はすべてアップル製品。「もうアップル製品しか使いたくないね」と笑いながら話してくれた。また、学内視察で見たプログラミングの教授はiPhone、教務主任はiPadを駆使する。








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ISMは西アフリカ有数の私立の高等教育機関。学内のポスターには数ある黒人指導者に並びなぜか最後にステーブ・ジョブスが。



 

アップルというエコシステム



このようにアフリカ経済が成長するに伴って、多くの人の所得水準が上昇し、高付加価値製品を買う人々の数がどんどん増えていく。拡大する「高付加価値製品購入層」をアップルは確実に取り込んでおり、それは全世界で起き続けている現象だ。

折しも先のアップルの発表会で登場したiPhone 5cは、従来から価格を下げ、新たなユーザにリーチする製品だ。今後アップルが売り上げを拡大していくためには先進国だけでなくアンドロイドやフィーチャーフォンが浸透する世界へと少しずつ歩を進めなければならない。iOSは決してiPhoneという端末だけで閉じた世界なのではなく、iPadそしてiOSを作成するために不可欠なMacへとそのエコシステムは組み込まれている。元来、ブランドとしても強みを持つ教育市場において、アップルが遅れをとる新興国や途上国へも上から眺めているだけの時代は終わりを告げようとしている。

個人的にアップル製品がアフリカをはじめとして途上国に与える最大のインパクトは付加価値としてのデザイン意識の植え付けにあると思う。これは我々日本人とて同じことだと思うが、もはや日常の多くの時間を占める端末群は視覚的に、そして感触的に我々の五感を刺激する。

つまり、アップルのエコシステムの中に入るということはデザイン意識を否が応でも高めざるを得ない。アフリカをはじめとして途上国ではIT開発のオフショアなども盛んであるが、このIT経済圏において主導を取ることが難しい理由として、デザイン要素を重要視しないことがその1つとして考えられる。

コードを書いて終わり、というだけではスマートフォンをはじめとして現在主流のアプリの世界では通用しないのだ。ユーザインターフェースやユーザエクスペリエンスなどを考慮した経験自体をうまくデザインというものに落としていく必要がある。アップル製品がそのトリガーになるといえば、いささか大げさすぎるだろうか。

アフリカの人たちが自分たちの使うサービスやアプリを自分たちで作成して広める。もうそんなことが当たり前に起き始めている。教育面においても、誰よりもその問題を肌身に感じているのももちろん彼らだ。テクノロジーが押し進める低価格化はこれまで解決できなかったアフリカの問題を解決するのかもしれない。前述の佐藤氏はアフリカにおけるスマートフォンやタブレットが果たす役割を希望を込めてこう見ている。

「スマートフォンやタブレットはアフリカ全体が抱える『教員不足』という教育問題を解決する可能性があります。例えばアフリカのサブサハラ地域では、初等教育の就学率が100%を超えているものの、学校の教員が大幅に不足していることから、修了率は高くありません。教員を増加させようにも予算や質の問題、そしてそもそもの育成を行う学校自体が足りないという現状です。そのため絶対数の足りない教師の代わりに、スマートフォンやタブレットでインストラクションにある程度富んだ教育を提供し、真に教師が求められるような部分にのみ教師によるハイブリッド型の授業を入れることで、教員不足という課題への解決手段になりうると考えています」。
 







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カフェで見かけたビジネスマンはiPadを開き、朝の通勤時間に通りで見かけた若い女性はスマートフォンで音楽を聞いていた。





『Mac Fan』2013年12月号掲載