5月24日にH-IIAロケットで打ち上げられる陸域観測技術衛星「だいち2号」とは?


2014年2月28日に種子島宇宙センターから「H-IIAロケット23号機(H-IIA・F23)」によって全球降水観測計画主衛星「GPM(Global Precipitation Measurement))主衛星」が打ち上げられたばかりですが、早くも5月24日に陸域観測技術衛星2号「だいち2号」と小型副衛星が打ち上げられることになりました。予定時間帯は12時5分〜12時20分で、5月25日〜6月30日が予備期間となっています。

 

5月24日に「H-IIAロケット」で打ち上げられる陸域観測技術衛星2号「だいち2号」。下に装着された合成開口レーダが特徴的です。左右に広がっている翼のようなものは太陽電池パドル(太陽電池やブランケット)です。(C)JAXA

 

前回と同様に使用されるロケットは、固体ロケットブースタを2つ搭載した「H-IIAロケット」で、24号機(H-IIA・F24)となります。衛星を格納するフェアリングは、全長12m、外径4mの4S型を採用しており、重さ2.1tの「だいち2号」を高度628km、軌道傾斜角97.6度の太陽同期準回帰軌道に載せます。小型副衛星は、東北大学「RISING-2」(43kg)、和歌山大学「UNIFORM-1」(50kg)、AES「SOCRATES」(50kg)、日本大学「SPROUT」(30kg)の4基で、「だいち2号」を分離した9分後に順次分離されます。

 

2月28日に「GPM主衛星」を打ち上げた「「H-IIAロケット23号機」。「だいち2号」は24号機での打ち上げとなります。(C)JAXA

 

「だいち2号」は、2006年1月24日に打ち上げられた「だいち」の後継機となる陸域観測技術衛星(ALOS=Advanced Land Observing Satellite)で、1992年2月に「H-Iロケット9号機(H24F)」で打ち上げられた地球資源衛星1号「ふよう1号」(JERS-1)と1996年8月に「H-IIロケット4号機」で打ち上げられた地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」(ADEOS)の延長線上にある人工衛星です。

 

1992年2月11日に打ち上げられた地球資源衛星「ふよう1号」は、「合成開口レーダ(SAR)」と「光学式センサ(OPS)」を搭載し、約6年半活躍しました。重量は約1.4tあり、「H-Iロケット9号機」で種子島宇宙センターから打ち上げられました。右のパネルが太陽電池パドル、左が「SAR」ですね。(C)JAXA

 

1996年8月17日に打ち上げられた地球観測プラットフォーム技術衛「みどり」には、宇宙開発事業団(NASDA)の「高性能可視近赤外放射計(AVNIR)」や「海色海温走査放射計(OCTS)」と公募センサ6種類を搭載していましたが、太陽電池パドルのブランケット破断の事故により1997年6月30日に運用を停止しました。重量は約3.6tあり、「H-IIロケット4号機」で打ち上げられています。(C)JAXA

 

「ふよう1号」と「みどり」の後を受けて2006年1月24日に打ち上げられた陸域観測技術衛星「だいち」は、5年以上運用され、多くの観測データを残しました。「パンクロマチック立体視センサ(PRISM)」「フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR)」「高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2)」という3種類のセンサを搭載。重量は約4tあり、「H-IIロケット8号機」で打ち上げられました。右が太陽電池パドル、左が「PALSAR」です。(C)JAXA

 

「だいち」は、標高など地表の地形データを2.5mの分解能で観測できる可視光域光学センサの「パンクロマチック立体視センサ(PRISM)」、マイクロ波センサによって昼夜・天候によらず陸地の観測が可能な「フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR)」、可視・近赤外域の観測波長によって土地の表面の状態や利用状況を知ることができる「高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2)」という3つの地球観測センサを搭載しており、地震、津波、台風、森林監視、自然環境保全、農業分野で活用しました。「PALSAR」は、「ふよう1号」で搭載された「SAR」、「AVNIR-2」は「みどり」に搭載された「AVNIR」を進化させたセンサです。JAXAによれば、5年間で全世界約650万シーンを撮影し、東日本大震災でも被災地を400シーンを撮影したそうです。設計寿命は3年でしたが、目標寿命の5年を超えて運用され、2011年4月22日に電力異常により交信不能となって5月12日に運用を終了しています。

 

JAXAでは「だいち」の成果の一つとして、画像約300万枚を利用した全世界デジタル3D地図の作成に取りかかっており、2016年3月までに完成を目指しています。世界で初となる5mの解像度と5mの高さの精度を持つデジタル3D地図は、地図整備や自然災害の被害予測、資源調査などでの利用を見込んでおり、NTTデータより有償で提供されますが、30m程度の低解像度版については無償で公開する予定になっています。

 

「だいち」に搭載された可視光域光学センサの「パンクロマチック立体視センサ(PRISM)」は、地表を2.5mの分解能で観測できました。しかも3組の光学系を備え、前方視,直下視,後方視の3方向の画像を同時に撮影することができました。(C)JAXA

 

2006年2月14日の昼間に「だいち」の「PRISM」で撮影された富士山です。真上からでなくこのような角度からも撮影が可能です。(C)JAXA

 

「フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR)」は、「ふよう1号」の「合成開口レーダ(SAR)」を進化させたものです。地上分解能100mであれば250km〜350kmのスキャンができます。地上分解能7〜44mでも40km〜70kmのスキャンが可能です。(C)JAXA

 

2006年2月15日の夜間に「PALSAR」によって、右下41.5度方向を約1000kmの距離で観測した画像です。マイクロ波レーダで画像を生成するため、「PRISM」と比較するとデジタル的な仕上がりですが、夜間に観測できるというメリットがあります。(C)JAXA

 

「高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2)」は、「みどり」に搭載されていた「高性能可視近赤外放射計(AVNIR)」の発展型です。人の目で見た色に近い色で表現された観測が可能です。(C)JAXA

 

2006年2月17日の昼間に「高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2)」によって観測された種子島。森林や穀物の具合を知ることができます。(C)JAXA

 

この「だいち」の後を引き継ぐ「だいち2号」の大きな特徴は、「だいち」に搭載されていた3つのセンサのうちの「合成開口レーダ」のみを搭載して機能を大きく絞り込んでいることです。多数のセンサを搭載して多機能多目的にすれば人工衛星の製作費はアップしますが、打ち上げコストは抑えることができます。しかし、1基に集約することによって打ち上げや運用中の事故・故障による運用停止のリスクが高まってしまうというデメリットもありました。そこで「だいち2号」では、センサを減らすことによって衛星本体の開発期間やコストを押さえ、他の観測は別の人工衛星に任せることによって様々な事故や故障によるリスクを回避する方向性で設計されています。観測できるデータの種類を絞ることによって、打ち上げる人工衛星の数は多くなりますが、複数同時運用によって1つの事故や故障によって観測体制を失うという事態は避けることができます。

 

「だいち」の全体です。「PRISM」は上部に結合されていますが、「PALSAR」はまだ取り付けられていないようです。重量は約4tあり、かなり大型の人工衛星です。(C)JAXA

 

「だいち2号」は、「だいち」の半分近い2.1tに軽量化されていますが、人間と比較するとかなり大きいですね。(C)JAXA

 

「だいち2号」が搭載する「PALSAR-2」は、マイクロ波を利用するレーダです。マイクロ波レーダは、観測に光を必要としないため、昼夜・天候を問わず観測ができる反面、光学式に比べると分解能が低く、能力を向上させるにはアンテナを巨大にしなくてならないという問題がありました。そこで、移動しながら電波の送受信を行って合成することにより、あたかも大きな開口であるかのうように観測できる技術を採用したのが「ふよう1号」に搭載された「合成開口レーダ(SAR=Synthetic Aperture Radar)」です。観測幅は75kmで分解能は18m×24mでした。「だいち」に搭載された「PALSAR」はその進化型で、約10mの高分解能観測モードに加え、観測方向を可変して250〜350kmの広い幅で観測ができる広域観測モード(ScanSAR)を備えることによって「SAR」の3~5倍の観測幅を実現しました。「PALSAR-2」は、さらにスポットライトモードを追加することによって分解能を1m×3mにアップし、広域観測の幅は490kmまで拡大されています。これによって「だいち」では最長3日かかった日本域の観測が約12時間に短縮されています。

 

「SAR」の観測イメージです。移動しながら地上に対してマイクロ波を送受信することによってデータを合成して高い分解能を実現します。(C)JAXA

 

「ふよう1号」に搭載された「SAR」。光学式センサと比べると分解能が低いので合成開口レーダでもかなりのサイズになってしまいます。(C)JAXA

 

「だいち2号」に搭載される折り畳んだ状態の「PALSAR-2」です。マイクロ波を送受信する位相変換素子が細かく配置されているフェイズドアレイレーダになっています。(C)JAXA

 

観測機能が絞られた「だいち2号」ではありますが、主な役目として、地図作成、地域観測、災害状況把握、資源探査で活用されるための観測を担います。日本の観測は約12時間ですが、アジア地域も約24時間で観測できます。被災状況や二次災害危険状況、復旧・復興状況を把握するだけでなく、地震や火山活動といった地殻変動の予測・監視、国際的な大規模災害時の補完も目指します。また、地図情報の更新やオホーツク海で海氷の監視といった国土の保全・管理、農作物作付けの把握による食料確保、森林の変化監視や違法伐採の監視、陸域や海底の石油・鉱物の調査へのデータ提供にも役立てられることになります。

 

このように、ざっと紹介しただけでも「だいち2号」は日本だけでなく世界から見ても重要な人工衛星であり、とにかく無事に打ち上げなくてはなりませんが、宇宙に運ぶ役目を担うのは、日本が世界に誇る成功率97.5%の「H-IIAロケット」です。打ち上げ事故が起きる心配はまずないでしょう。

 

 

カテゴリ: ロケット, 人工衛星
タグ: , , , , , , , , ,