2013年最大の天文イベント「アイソン彗星」がいよいよ接近!見頃は11月末から12月にかけて


3月の中旬に期待されていた「パンスターズ(PANSTARRS)彗星(C/2011 L4 )」は、0等級の明るさになるのではとたいへん期待されていましたが、実際に空を眺めてみると、ずっと地平線に近い場所で移動していたため、春霞の影響で空の透明度が悪く、しかも太陽の光の影響をもろに受けやすい位置に留まってしまい、肉眼どころか双眼鏡を使用しても見られなかった人がほとんどでした。

 

2013年3月12日18時38分に東京都三鷹で撮影された「パンスターズ彗星」です。写真中央やや右下に尾を引いている姿が見えます。しかし、肉眼で見えるような条件ではありませんでした。/提供 国立天文台

 

しかし、いよいよ後半の最大の天文イベント「アイソン(ISON)彗星(C/2012 S1)」が地球に近づいてきました。「パンスターズ彗星」と同様に長周期彗星で太陽に接近するタイプです。見頃は11月末〜12月初旬で、マイナス等級になるのではないかと予想されています。彗星そのものについての説明は、「今年の天体大イベントの一つ「パンスターズ彗星」がいよいよ見頃です」で説明しておりますので、そちらを参照していただくとして、「パンスターズ彗星」と違って観測条件がかなりよいので、今回こそしっかりと彗星の姿を捉えたいものです。

 

「パンスターズ彗星」は、太陽にもっとも近づいた時の距離が4500万キロメートル、地球からの距離が1億6600万キロメートルでした。当初の予想では-1.8等級〜4等級という明るさで、実際には0等級程度まで明るくなったようですが、観測条件の悪さから観測機器を持たない一般の方はほとんど見られない結果となりました。「アイソン彗星」は、11月29日前後に太陽にもっとも近づき、190万キロメートルまで接近します。太陽に極端に近づくということは、かなり明るくなる可能性が高く、マイナス等級になる可能性を秘めています。

 

「アイソン彗星」の位置です。太陽にもっとも近づく近日点通過時刻は日本時間の11月29日4時9分です。太陽に近過ぎると光で見えにくくなるため、その前後が見頃となります。/提供 国立天文台

 

水星の軌道まで近づいた「アイソン彗星」のより詳細な位置です。11月27日には水星の軌道の内側に入り、一気に太陽に近づきます。分裂や崩壊せずに近日点を通過できれば見事な形で再び姿を現すかもしれません。/提供 国立天文台

 

彗星と言えば、見事な尾を引く姿が目に浮かびますが、実際に日本で肉眼によって確認できたものは1997年の「へール・ボップ(Hale Bopp)彗星 (C/1995 O1)」と2007年の「ホームズ(Holmes)彗星(17/P)」とそれほど多くはありません。「アイソン彗星」は、久々に彗星らしい彗星が見られるという期待が持てますが、彗星というのは予想がなかなか当たらない天体であり、実際には空振りに終わったものも多数あります。特に太陽に接近する彗星は、分裂・崩壊して消滅してしまうことがあり、その時になってみないとわからないのが正直なところです。

 

1977年3月30日20時27分に木曾観測所で撮影された見事な尾を引いた「ヘール・ポップ彗星」です。/提供 国立天文台

 

国立天文台副天文台長の渡部潤一氏によれば、2011年12月の「ラブジョイ彗星(C/2011 W3(Lovejoy))」は、近日点距離が約83万kmという非情に近い距離まで太陽に接近するため、そのまま蒸発してしまうのではと予想されていたところ、実際には消滅せずに再び現れ、見事な尾を引く大彗星に変身しました。1965年の「池谷・関(Ikeya-Seki)彗星(C/1965 S1)」も約116万kmまで近づき、-10等級〜-11等級ぐらいまで明るくなりました。しかし、太陽に近過ぎて通常の方法では撮影できないため、乗鞍コロナ観測所のコロナグラフでその姿を捉えたそうです。「池谷・関彗星」はその後核分裂が確認され、尾を引いた姿が観測されています。

 

10月8日に開催された国立天文台主催の「科学記者のための天文学レクチャー」で、「アイソン彗星」について講演した国立天文台副台長渡部潤一氏。今回は大きく期待がはずれる要素は少ないが、彗星は実際に来てみないとわからないそうです。

 

「アイソン彗星」は、「ラブジョイ彗星」と「池谷・関彗星」の中間ぐらいだと見られており、-13等級という話もありましたが、実際には-6等級〜-1.5等級の明るさで核も分裂する可能性があると予測されています。当初の期待ほど明るくならない可能性が出ていますが、マイナス等級になれば充分肉眼でも観測できます。また、近日点通過後には10度以上の長さの尾がみられるのではないかということです。

 

すでにハワイの「すばる望遠鏡」が10月19日・21日に中間赤外線画像による「アイソン彗星」の姿を捉えています。また、石垣島天文台(自然科学研究機構国立天文台、石垣市、石垣市教育委員会、NPO法人八重山星の会、沖縄県立石垣青少年の家、琉球大学の6者が運営しています)でも105cm反射式(カセグレン式)経緯台望遠鏡「むりかぶし」が捉えた「アイソン彗星」の画像を10月21日撮影分より掲載しています。

 

ハワイにある国立天文台の「すばる望遠鏡」が10月19日・21日未明に捉えた「アイソン彗星」の姿です。東北大学の大坪貴文氏らの研究チームが人に目に見えない5~40 マイクロメートルの中間赤外線という波長で観測して撮影しました。この波長で「アイソン彗星」を捉えたのは世界初だそうです。/提供 すばる望遠鏡アイソン彗星観測チーム/国立天文台、画像処理:臼井文彦 (東京大学)

 

11月の「アイソン彗星」の動きです。しし座から下(東)に降りるような感じで、日の出の太陽に近づいて行きます。近日点に近くなると太陽の光で見えにくくなるため、11月中は24日までがよさそうです。12月は5日あたりから観測できそうですが、太陽の近くを通過する際に分裂・崩壊してしまうと消滅してしまう恐れもありますので、11月末にもチャレンジしたほうがよいでしょう。/提供 国立天文台

 

「科学記者のための天文学レクチャー」では、LLP京都虹光房/京都産業大学の小林仁美氏が、「彗星の組成と太陽系の形成」と題して、太陽系の形成時の温度研究として、彗星の観測(組成、重水素/水素比、核スピン温度)によって太陽系の過去の温度と密度を探り、太陽系の過去の温度を推定して太陽が形成された当時の分子雲や状況を探る方法を紹介しました。

 

LLP京都虹光房/京都産業大学の小林仁美氏。LLP京都虹光房は、2010年に京都産業大学神山天文台スタッフ有志により設立された天文学研究者による組織で、天文観測や物理実験データの解析と手法開発や光学機器をはじめとした各種開発、基礎から本格的な研究者レベルの内容が学べる天文学講座「アストロ・アカデミア」の運営等を行っています。

 

JAXA宇宙科学研究所招聘研究員猿楽祐樹氏は、彗星の持つ2つの尾であるイオン(プラズマ)テイルとダスト(塵)テイルのうち、彗星軌道上に分布し流星の起源にもなっているダストテイルの研究から彗星の進化や黄道光(惑星間ダスト)の分布とその起源を探ることによって、他の惑星系の観測結果を踏まえながら惑星系形成の過程を解き明かそうとしています。その研究活動の1つとして、JAXAでは2022年度の打ち上げを目指して、「次世代赤外線天文衛星SPICA」の開発を行っています。

 

JAXA宇宙科学研究所招聘研究員猿楽祐樹氏。「次世代赤外線天文衛星SPICA」の開発にも携わっています。

 

地球上からの観測は、大気によって微弱な赤外線が届きにくく、宇宙空間からの観測が適しています。「次世代赤外線天文衛星SPICA」は、大気圏外から観測するとともに、-267度という低温で3m級の大口径望遠鏡を冷却することによって高感度の赤外線観測を可能としています。(C)JAXA

 

なお、日本天文協議会では「アイソン彗星を見つけようキャンペーン」を11月1日〜1月20日まで実施しています。お子さんと一緒に彗星探しに参加してみてはいかがでしょうか。彗星が明るくなれば肉眼でも観測が可能ですが、双眼鏡を利用するとより見つけやすいでしょう。双眼鏡は肉眼よりも遥かに明るく見えるので10万円以上もする天体観測向けの製品でなくても彗星がある程度の光度になれば問題はありません。ぜひその美しさを楽しみましょう。

 

 

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